作業療法室
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作業療法士(Occupational Therapist:OT)は、その人にとって大切で意味のある「作業」(生活行為)を通じて、健康で豊かな生活をサポートする専門家です。
「作業」と聞くと、手作業や日常生活の動作を練習する場面を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、作業療法が目指すのは、その人の人生や価値観に寄り添い、「その人らしい生き方」を支えることです。言わば、皆さまの人生の目標に向けた伴走者やコーチのような存在でありたいと考えています。
たとえば、「家族のために料理を作りたい」「庭いじりをして自然を感じながら過ごしたい」
――そんな日常の中での作業が、その人にとっての生きがいとなり、生きる力に繋がります。
作業療法士は、これらの作業を再発見したり再構成したりできるようにサポートし、作業を通じて生きる喜びや満足感を感じられるようお手伝いします。
当院では、個々の生活の特性を大切にしながら、病気やけがの直後の入院生活から「その人らしい生活」への再構築を目指して支援をおこなっています。
作業療法の歴史
作業療法は、古代ギリシャ時代にまで遡る長い歴史を持っています。当時、人々は「作業」が心身の治療に役立つと考えていました。その後、18世紀フランスの精神科医フィリップ・ピネルが提唱した「道徳療法」が、作業療法の原型とされています。ピネルは、精神疾患の患者に音楽、農作業、物づくりなどの活動を取り入れることで症状が改善することを示しました。この人道的な治療の考え方が、現代の作業療法の基礎となっています。
20世紀初頭、アメリカでは作業療法が専門職として確立されました。その背景には、3つの重要な思想や運動がありました。
1. プラグマティズム(実用主義)
プラグマティズムは、「行動や経験を通じて得られる結果に価値がある」という哲学です。この考え方は、作業を通じて心身の回復を図る作業療法の理念を支える基盤となりました。
2. アーツ&クラフツ運動
産業革命により進んだ機械化に対抗し、人間の手作業の価値を見直す動きです。
この運動は、創造的な活動が人間の尊厳や心と体に癒しをもたらすと提唱しました。作業療法はこの考え方を取り入れ、治療に創造的な活動を活用するようになりました。
3. アドルフ・マイヤーの習慣訓練
精神科医アドルフ・マイヤーは、「人間の健康は日常生活の習慣のバランスによって維持される」という理念を提唱しました。彼は、食事や睡眠、作業、余暇など、生活のリズムを整えることが治療において重要であるとし、この考え方が作業療法の実践に大きな影響を与えました。
さらに、第一次世界大戦や第二次世界大戦を通じて、負傷者の心身の回復や社会復帰を支援するために作業療法が大きく発展しました。こうした歴史的背景を基に、精神科医、看護師、建築家、ソーシャルワーカーなど、多職種が協力しながら、作業を用いたセラピーとして作業療法が確立されました。
現代では、急性期から回復期、さらには生活期まで、病気やけがによる生活の変化に対応する包括的なアプローチとして広く応用され、人々の健康と生活の質の向上に寄与しています。
作業(生活行為)とは?
作業(生活行為)は、私たちの日常を形作る重要な活動であり、健康と密接に結びついています。これらの作業は大きく以下の5つに分類されます。
日常の身の回りの作業
食事、身だしなみ、排泄、着替え、入浴など、自分を整えるための基本的な行為。
家事などの生活を維持するための作業
調理、洗濯、掃除、買い物など、生活をスムーズに営むための行動。
仕事などの生産的作業
職業的な活動やボランティア、子育てなど、社会や他者に貢献する行為。
趣味などの余暇的作業
音楽、カラオケ、旅行、スポーツなど、自分の楽しみや心の豊かさを満たす活動。
地域活動などの作業
地域社会での交流、自治活動、コミュニティへの参加など、社会的なつながりを築く行為。
急性期病院では、これらの作業の中から患者さんが必要とする作業に焦点を当て、身体的・心理的な回復をサポートします。
作業ができなくなる原因と作業療法のアプローチ
作業ができなくなる原因は多岐にわたります。単に体が思うように動かないだけでなく、以下のような心理的、環境的な要因が影響することもあります。
- 気持ちが落ち込んでいる
- 作業の「意味」を見失っている
- 環境が整っていない
- 他者から否定されている など
急性期作業療法では、これらの原因を一つひとつ整理し、患者さんが「その人らしい作業」を再構成できるよう支援します。
作業療法の目的と支援内容
作業療法は、患者さんの心身の回復を目指し、「作業」を通じて多角的に支援をおこないます。以下の4つの柱に基づき、個別のニーズに対応した支援をおこなっています。
心身の機能回復を目指した支援
病気やけがにより低下した身体や脳の機能を回復するため、患者さんにとって意味のある作業を取り入れます。
- 身体機能の回復
麻痺した手を回復させるために、目的を持った活動を繰り返し練習します。これにより、活動が回復を促進します。
- 認知機能の向上
認知症や注意障害がある患者さんには、以前から親しんだ活動を取り入れることで、記憶力や集中力の改善が期待できます。
作業技能を高める支援
患者さんが安全で自信を持って日常生活を送れるよう、必要な作業技能を高める支援をおこないます。
- 日常生活の再現
食事やトイレ動作、着替えなど、基本的な動作を練習し、退院後の生活に備えます。
- 生活環境のシミュレーション
実際の生活に近い環境で練習をおこない、退院後の生活がスムーズに進むよう準備します。
心のケアを通じたサポート
病気やけがにより生じた不安や気持ちの落ち込みを解消し、前向きな気持ちを取り戻せるよう支援します。
- 楽しみや安心をもたらす活動
音楽、手芸、絵画などの趣味活動を通じて、患者さんがリラックスし、意欲やストレス耐性を高められるようサポートします。
- 心理的安定を促すアプローチ
呼吸法や軽いリラクゼーションを取り入れ、患者さんがリハビリに集中できる環境を提供します。
福祉用具や環境調整の活用
患者さんの生活の質を向上させるため、環境や道具を工夫して、作業を可能にします。
- 福祉用具の活用
リーチャーや床ずれ予防用クッションなど、患者さんの状態に合った福祉用具を選び、安全で快適な生活をサポートします。
- 自助具の作成
患者さんのニーズに合わせて、生活の負担を軽減する道具を作成します。
- 病院内環境の調整
ベッド周りや移動時の環境を調整し、患者さんが安全に過ごせるよう工夫します。
これらの支援を通じて、患者さんが日常生活を取り戻し、心身のバランスを整えることができるようお手伝いします。
泉大津急性期メディカルセンターの作業療法の特徴
泉大津急性期メディカルセンターでは、患者様一人ひとりが「その人らしい生活」を取り戻せるよう、下記の5つの点を大切にしながら、作業療法を通じて心と体の両面から支援をおこなっています。
1. 根拠に基づく作業療法(Evidence-Based Occupational Therapy)
作業療法の知見は日々進化しています。当院では、最新の研究やガイドラインを取り入れ、常に科学的根拠に基づいた作業療法を提供しています。
患者さん一人ひとりに最適なリハビリテーションをおこない、安心して取り組んでいただける環境を整えています。
2. 作業に根ざした実践(Occupation-Based Practice)
当院では、患者さんが日常生活の中でおこなう具体的な作業(生活行為)を直接評価し、その実現を支援しています。調理、洗濯、趣味活動などの身近な行為を通じて、患者さんが「自分にできること」を実感できるようサポートします。
また、作業療法の理論(MOHO、OTIPMなど)を活用し、一人ひとりの価値観や生活環境に合わせた個別的な介入をおこなっています。
3. こころとからだのリハビリテーション
急性期病院に入院される患者さんにとって、治療そのものが身体に与える負担や痛みに加え、将来への不安や人生そのものに悩むことは少なくありません。
このような状況で、作業療法は単に身体機能の改善を目指すだけでなく、患者さんの心のケアにも大きな役割を果たします。
4. 福祉用具・自助具の活用
作業を可能にする環境の整備も作業療法の重要な役割です。当院では、以下の支援をおこなっています。
- 福祉用具の活用
リーチャーや自助具を用いて、日常生活での作業をサポートします。
- 住環境の整備
快適で安全な生活環境を提案します。
5. 他職種連携・生活行為向上マネジメント(MTDLP)
退院後も自分らしい生活を続けていただくために、当院では他職種との連携を重視しています。
- 生活行為向上マネジメント(MTDLP)
患者さんの「どんな生活を目指したいか」という思いを共有し、多職種とともにその目標達成を支援します。