心不全センター
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心不全とは
心不全とは、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」です。心臓は、収縮と拡張を繰り返すことで、全身に血液を送り出すポンプの役目をしており、酸素が豊富で栄養たっぷりの血液を全身の臓器に届ける大事な仕事をしています。しかし、心臓の働きが弱くなると、全身に血液が十分に行きわたらず、息切れやむくみなどの心不全症状を認めるようになり、悪化すれば、入院での治療が必要となります。
心不全の原因となる病気は?
心不全は、いろいろな病気が元となって心臓の機能が低下することで発症します。心筋梗塞のように重症化し短時間で発症するものや、心房細動のような不整脈、大動脈弁狭窄症などの弁膜症や心筋症のように、比較的ゆっくり発症するものもあります。また、高血圧も最初のうちは全く症状はないかもしれませんが、心臓には常に負担がかかっているため、放置をすれば、やがて心不全を発症するため、油断できません。このように、心不全を発症するまでの期間は様々ですが、いずれの病気も治療をせず放置すれば、最終的には心不全を発症してしまいます。
参考資料:循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業 [※注:別ウインドウが開きます]
心不全の症状ってどんなものですか?
心不全の症状は、心臓のポンプ機能が低下するためにおこるので、大きく次の2つに分けることができます。
①低心拍出の症状:全身に血液が十分行き届かないためにでる症状で、●つかれやすい、●体がだるい、●手足が冷えるなどがあります。
②うっ血の症状:心臓から送り出せない血液がからだにたまることでおこる症状で、溜まる場所により症状が異なります。
肺に溜まってくると… ●動くと息切れがする、●夜間に咳が出る、●横になって寝ると苦しい
下半身に溜まってくると… ●体重が増えた、●足がむくんできた、●お腹が張る、●食欲がない
心不全はどのような経過をたどるのですか?
心不全は、いろいろな病気が元となって発症しますが、一度発症し入院すると、身体機能(=体力)が低下します。入院中に様々な治療や心臓リハビリテーションを行うことで、退院時には一定レベルまで身体機能は回復しますが、以前と同じレベルまで戻らない場合が多いといわれています。その後も増悪の波を繰り返しながら、徐々に身体機能が低下し、最終的には生命を奪ってしまいます。しかし、悲観することはありません。確かに心不全は完全に治るような病気ではありませんが、悪化させないよう上手にコントロールすれば、長生きすることもできます。その為にも、適切な治療と正しい自己管理の継続が非常に重要です。
どんな治療があるの?
心不全治療の3本柱
心不全の治療目的は、息切れやむくみなど今あるつらい症状(心不全症状)を改善することと、これからも心不全を悪化させずに、穏やかな自分らしい生活をおくること(予後改善)です。そのためには、大きく3つの治療法があります。
①お薬を用いた治療
②お薬以外の治療
③自身の日常生活管理(自己管理)
これらの1つが欠けるだけでも、心不全は簡単に悪化してしまいます。
お薬を用いた治療
心不全の治療で基本的、中心的な役割をするのが、お薬での治療です。
「お薬について」のところでも説明がありますが、心不全を治療する薬には、むくみなどの症状をとるお薬(症状改善薬)と、心臓の負担を和らげ、心臓を長持ちさせるお薬(予後改善薬)があります。症状緩和の代表薬は、利尿薬ですが、これは尿量を増やし体に溜まった余分な水分や塩分をとることで、むくみや息切れを改善します。一方、予後改善を目的に使用するお薬は数種類あり、それらを併用することで、より大きな効果が得られます。数年前までは、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬とβ(ベータ)遮断薬という種類のお薬が中心でした。特に、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制薬には、①ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、②ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、③ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬があり、①と③、または②と③にβ遮断薬を併用することが主流でした。しかし、この数年で、新たに心不全治療に有効なお薬(アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)・SGLT2阻害薬など)が登場したため、これまで服用していたお薬を変更したり、新たに追加することが多くなりました。
詳しい効果については「お薬について」で順次説明して行く予定です。お薬が増えてうれしい方はいないと思いますが、全て心臓を長持ちさせるお薬ですので、ご自身の判断で中止せず続けてください。
お薬以外の治療
お薬以外の治療には、様々なものがありますが、お薬のように全ての方におこなうものではなく、治療が有効な方に対してのみおこなうものです。
カテーテル治療
狭心症のように心臓自体に血液をおくる血管(冠動脈)が狭くなった場合、カテーテル検査を行い、狭くなった血管を風船で拡げたり、ステントという金具を血管の中にいれて、狭くならないようにします。
ペースメーカ
脈が遅くなる不整脈に対して、機械で刺激することで、一定以上の脈拍を保ち、リズムを調整します。
心臓再同期療法(CRT)
心臓にタイミングよく電気刺激を与えて、収縮のズレを調整し、心臓の働きを改善します。
植え込み型除細動器(ICD)
命に関わる不整脈が起こった時に、自動的に電気刺激で不整脈を止め、突然死を予防します。
カテーテルアブレーション
カテーテルを用いて、不整脈の原因となる部位を焼却し、治療します。
外科的治療
カテーテル治療の困難な狭心症に対するバイパス手術や、弁膜症に対して、弁を修復する手術(弁形成術)や弁を交換する手術(弁置換術)があります。最近では、弁膜症の種類によっては、体に負担の少ないカテーテルによる治療もおこなわれるようになっています。
持続陽圧呼吸療法(CPAP・ASV)
睡眠時無呼吸や呼吸の乱れを改善することで、心臓の負担を軽減します。
自身の日常生活管理(自己管理)
心不全が悪くなるきっかけの約半数は自己管理不足が原因と言われています。心不全を悪化させないためには、心不全と上手く付き合っていくことが「カギ」となります。自己管理は、医療者側が提供するお薬やお薬以外の治療と違い、主役はあなた自身です。つまり、「カギ」は、患者さん自身にあります。
自己管理と言っても何をどうすればいいのかわかない方も多いと思います。主に次の5つのポイントに注意することが、心不全の悪化を防ぐためには重要です。
①水分管理、②塩分制限、③きちんと処方されたお薬を飲むこと、④体重の記録、⑤息切れや浮腫みなどの症状の観察です。
この5つのポイントを理解し、毎日の生活で注意し、守ることが自己管理であり、自己管理を続けることが心不全と上手く付き合っていく「カギ」になります。
そのほか、日常生活の中で、便秘、入浴、喫煙、アルコール、ストレスなどにも注意が必要です。
次回から詳しく説明していきますので、またご覧ください。
どんな検査をするの?
いろんな検査を組合わせて心不全の状態をチェックします
心不全の状態をチェックするための検査には、①胸部レントゲン、②心電図、③心臓超音波検査(心エコー)、④血液検査、⑤核医学検査などがあり、これらの検査を組合わせて病状のチェックを行います。息切れやむくみなどの症状があれば、心不全になっている、あるいは心不全が悪化しているので、必ず検査は必要です。しかし、症状がでる前でも、早期に体調の変化を見つけ、心不全悪化を予防するためには、定期的な検査を行い、以前と比較して評価することが重要です。
画像を中心とした検査
胸部レントゲン
X線を用いて撮影し、心臓の大きさや肺に水が溜まっていないか(肺うっ血の有無)などを確認します。
心電図
心臓からでる電気信号を記録し、不整脈のチェックや心筋への障害の有無などをチェックします。
心臓超音波検査
超音波を用いて、体の表面から心臓の形、大きさ、働き(収縮・拡張)などをチェックします。繰り返し行うことができるため、心不全の状態の評価や治療の効果判定に有用です。また、弁膜症や心筋症といった心不全の原因となる病気の診断にも利用されます。(後日特集しますのでお楽しみに)
血液を用いた検査
心不全患者さんでは、血液検査を用いて、①心臓にどの程度負担がかかっているのか、②心臓から送り出された血液が、全身の臓器を経由してうまく循環出来ているのかを評価します。
①BNP/NT-proBNP:心臓から分泌されるホルモンで、心臓に負担がかかると上昇します。そのため、心不全の診断や心不全の悪化、改善の評価、治療効果の判定に用いられます。いずれの検査も目的は同じですが、基準値(正常値)が異なるため、まずは基準値を確認したうえで、その基準値からどの程度差があるかで病状の評価を行います。また、治療により全ての方が正常まで低下するわけではないので、病状が安定している時のBNP/NT-proBNPの値と比較しながら治療を行うことも多いです。また、症状がでる前から検査値が上昇することが多いので、症状が無くても定期的にチェックすることが重要です。
②血液が全身をうまく循環出来なくなると、いろいろな臓器に負担(障害)がかかります。特に腎臓と肝臓への負担が大きくなりやすいので、腎機能(クレアチニン、eGFRなど)や肝機能(AST、ALTなど)のチェックも重要です。また、心不全の治療には複数のお薬が必要ですが、腎機能に影響する場合もあるので、やはりチェックが必要です。また、血液中の酸素を運ぶのが赤血球ですので、貧血も心不全悪化の原因となります。特に女性や高齢者では貧血になりやすいため、貧血のチェックも行います。
簡単にいえば、①BNP/NT-proBNPは心臓の負担の大小を、②腎機能や肝機能は血液の循環の善し悪しを評価するめに行います。
放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ:RI)を用いた検査
放射性同位元素(RI)を用いた検査を、核医学検査と言います。使用する放射性同位元素の種類や検査方法(安静・負荷)よりいろいろな検査がありますが、今回は心不全患者さんによく行うMIBG心筋シンチ検査について説明します。
心臓には自律神経の一種である交感神経がありますが、心不全になると、この交感神経が過剰に働いたり、数が減ってしまうことがあります。MIBG心筋シンチとは、この心臓にある交感神経の状態をMIBGという放射性同位元素を用いて評価する検査です。この検査を行う事で、心不全の重症度、治療効果の判定、予後などを調べることができます。(後日特集しますのでお楽しみに)