泌尿器科
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1)前立腺癌
●前立腺癌とは?
2019年の国立がん研究センターのがん統計によると、男性の罹患する癌では前立腺癌が1位であり約9.4万人でした。しかし、2020年の統計によると、死亡数は男性で7位の12759人、5年相対生存率(癌と診断されても5年後に治療でどれだけ命を救えているか)は99%です。
なぜ生存率が高いか?限局性がんの場合、局所療法(手術、放射線治療)が非常に効果的で多くの方は局所療法のみで完治します。転移性、高齢者の患者様にはホルモン治療(男性ホルモンを低下させる治療)が非常によく効きますからほとんどの人が男性ホルモンを抑制する治療により少なくとも数年は癌の進行を抑えることができます。ですから前立腺癌と診断されても、すぐに命がなくなるわけではないのです。しかし受診時、すでに転移がある場合は、5年相対生存率は53%と大幅に低下します。
●検査と診断について
前立腺癌にはPSAという特有の腫瘍マーカーがあります。人間ドックでPSA異常値を指摘されて泌尿器科を受診される方や、最近では、自治体のがん検診でもPSAの採血を採用している市町村も多くなってきました。PSAが高値でMRIでもがんが疑われる場合は組織検査(生検)を行います。現在は腰椎麻酔下でMRIとエコーを対比させながらターゲットをより正確に生検するMRI超音波融合生検を行っており、正診率の向上に努めています(MRI-超音波融合生検の項目参照)。
●治療について
治療は、手術治療、放射線治療、ホルモン治療、抗癌剤治療に分かれます。 完治する治療方法として、手術治療と放射線治療があげられます。
手術方法
期待余命10年以上ある方にお勧めしています。具体的には、平成30年の厚生労働省発表の平均余命表によると、75歳の方で12.29年、80歳の方で9.06年となっていますから、身体的にお元気な方で他に重い病気がない方では80歳までが対象です。それ以上の年齢の方や他に重い病気をある方は、個人差はありますが、手術でなくても放射線治療やホルモン治療が比較的長期間効果が持続するので、その方にとってベストな治療を選択いたします。
当院では2019年8月から手術方法としてロボット支援手術(ダ・ビンチ)を年間60件程度行っています。当院ではロボット支援手術を行う資格を持った医師が3名(玉田、呉、香山)、そのうち玉田と香山は他の医師を指導できる資格(泌尿器内視鏡・ロボティクス学会プロクター)をもち、玉田はロボット外科学会認定の国内A級ライセンスも取得しています。
通常、この手術を行うには頭を25度下げた状態で行いますが、脳疾患の既往がある、緑内障を有する症例などでリンパ節郭清を必要としない患者さんに対しては、頭を5-10度しか下げない後腹膜アプローチによる方法も行っています。
手術時間は2.5時間(リンパ節郭清なし)から4時間(リンパ節郭清あり)で、出血量は100ml程度、輸血を要することはほとんどありません。
この手術のポイントはできるだけ正常な尿道を多く残すことより術後尿失禁の合併症も軽減させることです。また、癌が前立腺のどの部位にあるかによって違いますが、右と左にある神経血管束をどちらかもしくは両方を温存することで尿失禁を予防したり、勃起機能を保てる可能性があります。
ロボット特有のアーム(手)によって、狭い骨盤の奥で前立腺を摘出した後の尿道と膀胱を吻合する技術は、術後の尿道バルーンを早期に抜去することが可能で早期退院につながっています。
当科では、術後から5日目には尿道カテーテルを抜去し、6-7日目には多くの患者さんが退院されます。
その後は、PSAを測定して再発していないか経過観察します。
放射線治療
当院では強度変調型放射線治療を行っています。一般的にはホルモン治療を6か月から9か月先行したのち、約2か月かけて通院または入院にて週5日、少しずつ照射して癌を殺していきます。その後、PSA検査して経過観察します。高リスク症例では放射線照射後2年程度ホルモン療法を併用します。
なお、放射線治療を行うと、合併症として放射線性膀胱炎、放射線性直腸炎を発症する場合があります。放射線照射後、数年経過してから発症することもあり難治です。
また尿失禁、勃起障害も発症します。一般的に放射線治療が有効である期間は5年程度とされており、再発後はホルモン療法を行います。
薬物療法
リンパ節転移や骨転移など診断時に転移があった方や80歳以上の高齢者に対して行う治療です。皮下注射と内服で治療を行っていきますが、効果が数年でなくなることが多く(長い方で10年近く効果が持続する方います)、その場合は内服の薬を変更したり、抗がん剤の点滴治療をしたりします。 抗癌剤治療は、日本ではドセタキセルとカバジタキセルが承認されています。 ホルモン治療の効果がなくなった時に使用します。特に予想外に早くホルモン治療の効果がなくなった場合(6-12か月)、早期に抗癌剤治療を始めることが推奨されています。最近、特殊な遺伝子変異(BRCA1/2)を持っている患者さんに対して有効な新しい治療薬(リムパーザ)が承認されました。遺伝子変異が認められれば、それによる治療も可能です。