循環器内科・冠疾患内科
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冠動脈疾患とは?
心臓は筋肉で構成されており全身に血液を送るポンプの役割を果たしていますが、心臓自身に血液を供給しているのが心臓の表面に走っている冠動脈です。その冠動脈の壁に動脈硬化に伴う脂や線維、石灰などのカス(プラーク)が溜まり血管が狭くなることで血流が低下し狭心症と呼ばれる状態となります。
狭心症が進行したり血栓が形成されることで突然血管が閉塞すると急性心筋梗塞となり命に関わります。これら狭心症や心筋梗塞を総称して冠動脈疾患と呼びますが、心筋梗塞の発症を予測することは現在困難であるため狭心症の段階で早期に診断、治療し心筋梗塞へ進展するのを防ぐことが重要です。
冠動脈疾患の診断方法
狭心症の症状は階段を昇った際や重い荷物を持った時などに胸が苦しくなる、冷や汗を伴う息切れなどが代表的であり、当院の外来では次の精密検査として患者さんへの負担の少ない心臓CTや心筋シンチグラムなどで通常確認を行います。但し心電図や血液検査、問診などの結果心筋梗塞に移行しかけている不安定な状態といった危険な兆候があれば患者様と充分相談のうえ心臓カテーテル検査を優先する場合もあります。
心臓カテーテル検査
冠動脈疾患の可能性が高いと判定された場合は心臓カテーテル検査にて確定診断を行います。カテーテルと呼ばれる直径2mm程度の細い管を足の付け根や手首の動脈から挿入し、心臓の出口付近の冠動脈に引っ掛けて造影剤を注入、撮影を行い冠動脈の狭窄や閉塞の度合いを調べます。当院では殆どの症例において負担の少ない手首の血管から検査と治療を第一選択部位として行っており、治療を行った場合でも合併症がなくスムーズに終了した場合は通常1泊もしくは2泊で退院可能となります。
当院では3台のアンギオ装置が稼働しており、毎日の通常の心臓カテーテル検査の最中にも急を要する心筋梗塞などの重症患者さんへの治療を遅延なく行える体制となっております。
心臓カテーテル治療(冠動脈インターベンション)
心臓カテーテル検査(冠動脈造影)にて狭窄や閉塞を確認した血管に対しては、バルーンやステントを用いて血管を広げて血流を確保します。
以前のバルーンやステント治療における再発率(内膜が増殖し再び狭くなる確率)は10-30%と報告されていましたが、近年の薬剤溶出性ステントの使用により再発率は数%にまで減少しています。また再発症例や小血管に対しては、薬剤溶出性バルーンを積極的に使用することにより留置するステントを減らすことに努めています。
当科での心臓カテーテル治療の特徴として、血管内超音波やプレッシャーワイヤーなどの一般的なプラーク、心筋虚血評価方法に加えてOCT(光干渉断層像)を用いた詳細な評価や血栓などに対するエキシマレーザー治療、DCAによるプラーク切除、石灰化病変に対するロータブレーター等の最新機器を併用することでより患者様の状態に適した治療と正確な診断を安全に提供する事を心掛けています。冠動脈の状態によっては当院併設している心臓血管外科と密に連携することでスムーズに緊急を含めた外科的治療を行うことが可能です。
また当院ではハートコールを導入しており、24時間365日循環器内科医が常駐し近隣の救急隊、病院、開業医の先生方と連携することで、一人でも多くの心臓病の方を受け入れ治療させていただくことに努めています。
OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層法)
日本では多くの施設で冠動脈治療の際にIVUS(血管内超音波)というカテーテルを併用して治療することが多いですが、当院ではIVUSの他にOCTを積極的に施行しています。OCTとは超音波の代わりに近赤外線を用いた血管内断層画像装置です。従来のIVUSと比較して約10倍の高解像度を有しており、より詳細な冠動脈構造を観察する事ができます。OCTにより微小な血栓や解離(血管の裂け目)、ステントの圧着具合などが発見できることによって、治療成功率の向上や合併症の低減に貢献する可能性が期待されています。
エキシマレーザー治療
当科では2014年から心筋梗塞などの症例に対してELCA(エキシマレーザー)を積極的に併用しています。エキシマレーザーとは非熱的な物理的エネルギー(光子エネルギー)が分子結合に直接作用して分解することで、血栓やプラークを蒸散、除去することができます。他のレーザー治療と比較して熱発生がなく、末梢塞栓の発生率が極めて低いといわれています。心筋梗塞の症例における血栓性病変や柔らかい脂肪組織を主体としたプラークへ使用することでステント留置後の冠動脈の目詰まりを予防することや慢性閉塞病変の硬い部位を安全に除去することが期待されています。ELCAは全国でも施行できる施設が少ない高度医療であり、当科では日本有数の施行症例数を誇っています。
DCA(Directional Coronary Atherectomy:方向性冠動脈粥種切除術)
先端付近にカッターが収納されているカテーテルを冠動脈内のプラークにおしつけて切除する方法です。切除したプラークは体外にて回収することが可能です。血管内超音波などでプラークの方向を正確に判断し切除する必要があり高度な技術と経験を要するため現在は経験豊富な一部の施設のみでしか推奨されていません。プラークを切除することで異物であるステントの植込みを避ける事や、枝の血管の閉塞を避けたりできるメリットがあり、大きな血管や血管の付け根への治療に大きな効果が期待されており当科でも最適な症例を選択し良好な成績が得られています。
ロータブレーター
透析や高齢者、糖尿病の方の場合動脈硬化が進行し冠動脈にカルシウム沈着による強い石灰化が起こることが多いといわれています。通常のバルーンやステントの拡張が得られず道具も通過しない場合があり現在でも治療成績が悪い病態とされています。ロータブレーターとはこういった石灰化病変に対して先端にダイヤモンドチップがついたカテーテルを毎分14-20万回転という高速で回転させて血管内の石灰化プラークを削る方法です。削ったものは非常に小さなものになり末梢に詰まることは稀であり、柔らかいものは削れにくいことが特徴で、血管壁を傷つけにくいといわれています。ロータブレーターは施設基準が必要で一部施設のみでしか認可されていない高度な治療であり、当科でもバルーン治療が困難な石灰化症例に対して習熟した医師が行っており良好な成果を挙げています。
ダイアモンドバック
従来のロータブレーターに加えて、2019年より保険適用可能となった高度石灰化病変に対する治療デバイスです。カテーテル先端から数ミリのところにダイアモンドでコーティングされたクラウンと呼ばれる部分があり、この部分が高速回転することで石灰化を削ることができます。ロータブレーターとの違いとして、ダイアモンドバックは高速回転(毎分8万回転または12万回転)する遠心力で広範囲の深い石灰まで削ることができ、前方向だけでなく後方向に引いた際にも削ることができます。また、ロータブレーターと比べて少しずつ削るため、末梢の目詰まりが少ないとされています。
Shockwave(ショックウェーブ:血管内石灰化破砕術)による新しい治療
冠動脈の石灰化に対してロータブレーターやダイアモンドバックは非常に有効ですが、正常の血管が傷ついたり、削った粒子が毛細血管で目詰まりして血流が低下してしまうといった合併症がしばしば問題となり、共に高度な治療技術が必要となります。
近年、このような高度石灰化病変に対して安全に治療できるショックウェーブカテーテルが開発され、日本にも導入されました。ショックウェーブカテーテルは、バルーンから衝撃波を発生させて石灰化に無数の微細な亀裂を作り、石灰が容易に割れることで最終的にステントが良好に拡張することが期待できます。
これにより治療時間が大幅に短縮されるだけでなく、合併症リスクの低下が期待でき、心機能低下などの理由で従来治療が困難であった患者さんにも安全に治療することが可能となりました。
当院では2022年よりショックウェーブカテーテルを導入しており、多くの患者さんの冠動脈治療に効果を発揮しています。ただし、ロータブレーターやダイアモンドバックの方が適している場合もあるため、チームで十分に検討、冠動脈イメージング(IVUS/OCT)を用いて石灰化を詳細に評価した上で治療方針を決定しています。