医学書 ブックレビュー
No.80
家庭医療のエッセンス
カイ書林が発行する「ジェネラリスト・マスターズ シリーズ」の一冊であり第7巻。
読者の日常臨床に直ちに影響を与える本を提供することを目的とするシリーズであり、編集の方向性が異なるが、
CBR発行のシリーズとともに安心して購入できる書籍である。
今回は、家庭医療についての背景、理論のみならず、家庭医療を研修、勉強するために必要な、まさしく「エッセンス」が網羅されたものとなっている。
統合ケア、個別ケア、患者中心の医療、行動変容アプローチなど、キイワードが並ぶ。
個人的には第5章「家族を視野に入れて協調するケア」が興味を持って読めた。
巻尾の「引用・参考文献」のリストも著者らの熱意が伝わってくるもので圧巻である。
現時点で、家庭医療の門外漢がオーバービューするには非常に適した一冊と思われ、
内容評価は
、
値段は
。
ただ当たり前であるが、逆に家庭医療が苦手な方が読むには一種哲学書の趣があり、苦行となりやすく読み手を選らぶ書籍であり、お勧め度は、
とします。
July9.2012(N)
No.79
理性の限界
理性の限界を仮想ディベート形式で、副題にある不可能性、不確実性、不完全性から述べた一冊。
オビの「囚人のジレンマ」という言葉に惹かれ購入。
やはりというか、内容はハイレベルでほんの一部しか理解できなかったが、三大定理(何のかは不明)として触れられるアロウの不可能性定理、
ハイゼンベルクの不確定性定理、ゲーデルの不完全性定理を中心に分かりやすく解説されている。
でも、なかなか理解した気持ちにはなれないが、「すごい」なという気分にはなれます。
医療倫理を考えるために論理学が必要か、と思い読んでみたが、自分の頭では少し無理があったかもしれません。
現代新書のシリーズの一冊であり、他に2冊同著者であるらしく、もう少し頑張ってみます。
内容評価は
、
値段は
。
知的刺激が欲しく、この分野に興味がある方にはうってつけですが、歯ごたえたっぷりであり、お勧め度は、
とします。
July8.2012(N)
No.78
救急レジデントのTIPS
関東の主要4病院の救急部門が毎月開催している合同カンファレンスから臨床研修向けに編まれた一冊。
といってもいわゆるマニュアル本ではなく、実際の症例を通して必要な知識を確認しようという趣旨のものであり、
指導医がレジデントに教育的指導として触れたい「現場の実践知」を集めた書籍となっている。
実際扱われる89症例は成人から小児まで、外傷から内因性までと、ER現場に遭遇するレパートリーはほぼ網羅されている。
その上、診断名を並べるとまれな症例報告集ではない、必要される経験が詰まったものとなっている。
問題集としても仕え、今の自分の力を測るという使い方も、指導医として必要とされる水準を見据えるという使い方も、いろいろ考えられ、
内容評価は
、
値段は
。
一言で単独の著作でないのに本当にうまくまとまった本であり、内容の濃さと相まって学ぶには最高の書籍であり、お勧め度は、
とします。
July7.2012(N)
No.77
初めての人が達人になれる使いこなし人工呼吸器
人工呼吸というより人工呼吸ケアのプロを目指した看護向けの書籍。
「ナースビギンズ」のシリーズからの一冊。
人工呼吸の勉強は最初からハイレベルの内容となってしまうためどうしても敬遠気味の分野となりやすく、結果、
分かりやすい本というと結構看護向けの書籍や雑誌の別冊を持っている方も多いようです。
今回もケアだけでなく人工呼吸の基本から紹介され、グラフィックまで言及されているため本当に実用的な内容となっています。
ただ、各施設で使用されている人工呼吸器ごとの違いに即して紹介がされていないため、総論的な話になっているとこころが残念です。
人工呼吸器を使用する、しないに関わらず理解は必要であり、
内容評価は
、
値段は
。
入門編としてはうってつけですが、現場で人工呼吸器をこの一冊ですぐ使えるかと言う点ではつらいところがあり、お勧め度は、
とします。
July6.2012(N)
No.76
まずいから始める意識障害の初期診療(救急・ERノートNo.5)
レジデントノートの別冊で5巻目となる書籍。
一般診療で必ず必要となる意識障害をテーマとした内容であり、300ページ弱のボリュームでかなり網羅的にまとめられている。
内容はオーソドックスで、総論からはじまり、ケーススタディを通して各論的なものがほとんど取り扱われている。
内容も最新の知見をちりばめ、うまくまとめ上げられている。
ただ、救急医学の専門家がほとんどを分担執筆されている関係上、やや外傷に偏った配置となっており、もう少し内因性の部分を読みたかった気がする。
どこかで一度は意識障害のことを勉強しないと、という方には薦められるしっかりした一冊である。
内容評価は
、
値段は
。
正直、挿入されている堤先生が主に書かれているコラムが大変面白く、それだけでももう一冊という気になり、お勧め度は、
とします。
July5.2012(N)
No.75
保健医療分野におけるBI(ビジネス・インテリジェンス)入門
検診部門で取り扱われるデータを理解しようとして購入した一冊。
特定健診や保健指導の分析事例を元に詳しく解説されている。
ただ、使用されている「QlikView」というソフトの紹介と取扱に大部分が割かれ、
一般論としての「保健医療分野におけるBI(ビジネス・インテリジェンス)入門」を期待された方はかなりがっかりするものと思われる。
今回はテクニック的な書籍となり、余り紹介する内容がない。
そういうソフトの使う必要がある方が購入、使用される実用書ということになります。
正直は、内容は私には歯が立たなかった。残念ながら。くやしさもあってか、
内容評価は
、
値段は
。
もう少し、タイトルに関連して一般を入れて欲しかったという願望を込め、お勧め度は、
とします。
July4.2012(N)
No.74
診療所で行うめまいの検査(ENTONI No.141)
毎月発行されているムック形式の耳鼻科領域書籍の一冊。
耳鼻科からみた、というより「お株」である今回はめまい検査の特集。
重心動揺検査や温度眼振検査など精密検査がならびグレードが高い。
ただ、Head Impulse Testなど実際を知りたい内容が専門家により紹介されているは大変ありがたかった。
本シリーズは領域的にめまいが扱われる巻が多いが、他にも、舌、口臭なども取り上げられ、面白い内容のものが目立つ。
ときどきはチェックしておいても損のないムックである。
めまい、ふらつきを担当しない総合診療医はいないと思います。
内容評価は
、
値段は
。
最近は「めまい」関連の書籍が多く出ており、特色を出そうとすると結構専門的(=耳鼻科)になってしまい、お勧め度は、
とします。
July3.2012(N)
No.73
心の病 回復への道
精神科医が発症したこころの病についての基本情報と特にチームケアの在り方について語った岩波新書の一冊。
予防、治療も大切であるが、やはり社会復帰に向けて具体的にどうするかが、よくまとまって述べられている。
結局は精神保健行政やシステムの問題としての捉え方になってくるのだが、正直こうなると読むのはつらくなってきます。
うつ病や認知症関連本がはやりで、薄っぺらい書籍が氾濫している現状のなか、地に足をつけた分量という意味でなく重厚でかつ濃い内容の本である。
どうしても少し「学ぶ」という要素が入ってしまう書籍ですが、
内容評価は
、
値段は
。
読みとおすには若干根性が、私なりには必要でしたが、好みの問題かもしれません。お勧め度は、
とします。
July2.2012(N)
No.72
大人のアスペルガー症候群
診療のためだけではなく、医療現場における対人関係やコミュニケーションの問題を考える上でよく出てくる言葉である、
アスペルガー症候群について解りやすく考え方をまとめた一冊。
アスペルガー症候群の現状と理解の仕方、そして治療から社会問題としての捉え方などが網羅されている。
オビにある「生きづらさの原因」を知り、どう対処していくか。
対患者という意味だけでなく、どうしても病院での職員の間の問題として捉えてしまうのは考えすぎなのかもしれない。
専門外であってもコミュニケーションという問題を考える上で避けては通れない部分かもしれない。
内容評価は
、
値段は
。
イラストが多く、非常に読みやすく理解しやすい文庫本であるが、読み進めるは少し内容が内容だけにつらいものがあり、お勧め度は、
とします。
July1.2012(N)
No.71
医者が大学を辞めるとき
神経内科専門医が医局の側からの視点でとらえたエッセイ。
大学という医療現場での実態を誰しも多かれ少なかれ感じていること、いたことを見事に伝えている。
ただ、この本を通して著者は、大震災と原発事故というできごとを経験し、人生と一部として自分がどう向き合うかを模索し、
タイトルの如く大学病院を辞し、南相馬市立総合病院に兼務となった経緯を述べている。
“自己固め”、“真摯な思索”や“魂の納得”などをキーワードにしながら、自己の精神の変革を描いており、
自分自身の生き方を考える上で大変参考となると思われる。
ただ、随筆調ではあるが、内容は非常にロジカルである、医学論文を読んでいる錯覚に陥るような格調高さでもある。
内容評価は
、
値段は
。
一度、自分を見つめなおしたい、一旦立ち止まって周囲を見つめいたい方にはうってつけの一冊であり、お勧め度は、
とします。
June30.2012(N)
No.70
宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ 検定の巻
6年以上前に出たものの続編。
タイトルは「検定の巻」がないだけで同じもので岩波科学ライブラリーの一冊ある。
おとぎ話(地球侵略もの?)の設定を借りて、医療統計を解りやすく解説している。
ただ、基本的な考え方を述べているにとどまっているので、入門編という位置づけである。実際に臨床の大規模試験などを読み込むためには、
これだけで不十分であるが、最初に読む本としては理解しやすく入りやすい構成となっている。
これから学ぶ方には適した書籍であり、
内容評価は
、
値段は
。
ただ、読み手が自分の医療統計のレベルがどの程度か理解していないと初歩的過ぎ、逆にがっかりする可能性もあり、お勧め度は、
とします。
June29.2012(N)
No.69
今日のcommon disease診療ガイドライン
同じ出版社の「今日の治療指針」をガイドライン解説、薬剤情報、処方例を提示して、日常診療でよく遭遇する疾患にすぐ対応できることを目的とした書籍。
国際医療福祉大学グループの専門医が総力を挙げ参加している。
著者らは、エビデンスに基づいた臨床ガイドラインに掲載された薬剤を選択することと生涯にわたる治療の費用対効果を考慮した
薬剤選択を2つのルールとして該当するものを「エスタブリシュ医薬品」と呼称している。
そういった薬剤による「標準治療」を一冊のハンドブックに収めたものである。
通常読みとおす本ではないが、薬剤一覧を除くと340ページ程度であり、通読可能である。
外来診療等で何か一冊というときの選択枝にはなり、
内容評価は
、
値段は
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個人的には目を通して行くうちに「今日の治療指針」との差が解らなくなり、お勧め度は、
とします。
June28.2012(N)
No.68
不可能を可能にする!ものづくり現場の名語録
最近はまっている「一言」シリーズで購入した一冊。
こういうときはまず文庫本に目が行ってしまうのは仕方がない。
「不況期に伸びる会社があり、好況期に潰れる会社がある。その差は、知恵と調和と熱さの差なのだ。」
という内容を、現場に声を一つ一つ取り上げていくことで、元気がもらえる本となっている。
本当に力のある、いい言葉が詰まった書籍である。
特に気に入ったことばを三つあげると、「立ち止まっていたらダメ。一歩足を前に出すことで、違う景色が見えてくる。」、
「一個を断ったら次はありません。」、「情報は発信しなければ、こちらに入ってこない」となります。
コピー&ペーストで成り立った本ですから、
内容評価は
、
値段は
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創造的、個性的な面がない書籍であったも、現場の汗のにおいが好きに方にはうってつけで、お勧め度は、
とします。
June27.2012(N)
No.67
この一冊で極める不明熱の診断学
名古屋第二赤十字病院の総合内科である野口先生が監修され、横江先生たちが書かれた、避けては通れないまるごと「不明熱」についての一冊。
経験と知識に裏打ちされた、普通はあやふやにされがちな箇所も明確かつ断定的に記載されており、
オビにある「内科医・臨床研修医必携!」は売り文句だけではないと納得させられる。
診断から治療までを網羅されており、300ページ弱の濃い書籍であるが楽しく読める内容である。
以前に名古屋大の鈴木先生が出されたDVD(後に雑誌には連載)の不明熱の講義や同じく岩田先生のシリーズDVDも非常に楽しく、
また、本書籍でも結構引用されている2007年にCunhaが編集したInfect Dis Clin North Aの一冊(21巻4号)である不明熱の特集号を読んで比較するのも一興かも知れない。
内容評価は
、
値段は
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読後の感想としては率直に「やはり不明熱は難しい」となりそうで、お勧め度は、
とします。
June26.2012(N)
No.66
必ず役立つ!「○○の法則」事典
日常で名前だけ知っているが、というレベルの法則から内容は解っているが逆に法則の名前があやふやなものまで、結構法則のお世話になっていることが多い。
法則とは一定の条件のもので成立する事物相互間の関係を意味するが、ビジネスに関連したものを中心の70の法則の紹介した書籍である。
80対20の法則(パレートの法則)、2−6−2の法則、ロングテールの法則、ハインリッヒの法則、7−38−55の法則(メラビアンの法則)など
数字を主に用いたものからマーフィー、パーキンソン、ピーター、ディルバートホイーラーなどの第○法則として列記されるものまで紹介されている。
個人的には「物事も複雑にするのは簡単だが、簡単にするのは難しい」というレス・イズ・モア(Less is more.)の法則が好きである。
内容評価は
、
値段は
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短時間で人生を知った気になれる読み物なので、お勧め度は、
とします。
June25.2012(N)
No.65
哲学ディベート 〈倫理〉を〈論理〉する
タイトルからはむずかしそうな書籍としかわからないが、「おわりに」の部分に「現代の〈倫理〉的問題を〈論理〉的に考える」という形態の本と解る。
本文の全5章の内、第2章の代理出産とベビービジネスのディベートと第5章の安楽死と自殺の箇所が医療と深く関わっている問題であり、かつ、よく取り上げられる内容である。
医学生を含め、各学部の学生を登場させ、ディベート形式にて各立場(専門性)を尊重しながら進む議論は読み応えがある。
内容はそれほど安易ではないが、序章の「あなたはなぜ正直なのか」の議論を通して学ぶソクラテス、
プラトン、アリストテレス以降の2400年間の道徳の歴史的主張が50ページにも満たないボリュームを収まっていることに驚かされます。
内容評価は
、
値段は
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「倫理的な問題に対して絶対的に安全確実な指針はない」という意味を確認することはすべての医療関係者には必要であるが、やはり読みにくいという面と合わせ、お勧め度は、
とします。
June24.2012(N)
No.64
すっきりわかる!超訳「哲学用語事典」
最近の医学書を読んでいると医学雑誌の連載記事もそうであるが、著明な方ほど難しい用語を駆使して持論を展開されていることがままある。
その言葉でないと言い表せないのであろうが、凡人には逆に全く理解できないしろものとなってしまう。
一般常識の欠如でしかないだが、「ルサンチマン」、「メタファー」、「ペルソナ」、「アフォーダンス」や「構造主義」といった言葉が出てくると不安になり、
意味の確認にウィキペディアを開いてしまう始末である。
いまさらのことを簡単に知識としておくには便利な一冊である。
ただ「超訳」であることが凡人にはすぐわかってしますところ、たとえば「エピクロス派」などの項目もあり要注意ではあるが。
内容評価は
、
値段は
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読み物としてはよいが、やはり医学には余り関係がないので、お勧め度は、
とします。
June23.2012(N)
No.63
世界で1000年生きている言葉
歌人、作家であり元国連親善大使である著者が「言葉の世界遺産」を求め旅に出た成果物である一冊。
この手の本に解説は不要でしょう。代わりにいくつかの言葉を紹介します。
「昨日より遠いものはない。明日より近いものはない。」(カザフスタン)、
「上がるものはみな下がる。」(ドミニカ)、
「良い木に近づけば、良い日陰が得られる。」(コスタリカ)、
「指揮より見本」(スリランカ)、
「息があるかぎり、希望がある。」(ネパール)。
綺羅星のごとく至言が並ぶ。著者の解説も絶品であり、平原を風に当たりながら旅をする気分で読了できます。ほぼ、医学とは無関係ですが、
内容評価は
、
値段は
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たまには気分転換を、という意味も込め、お勧め度は、
とします。
June22.2012(N)
No.62
ビーイング・グッド:倫理学入門
2001年にA short introductionという叢書シリーズの一冊として出版された倫理学の入門書を2003年に翻訳出版したもの。著者はイギリスの哲学の大家。
最良・最短・最新の倫理学入門書というのがキャッチフレーズであるが、少なくとも「最新」だけは当てはまらない。
構成は、はじめの部分で道徳と倫理の相違について述べられ、本文第一部で倫理学の問題点を七つの視点から検討されている。
そこから逆に倫理学の諸概念の紹介に移り、最後の第三部で倫理学の基礎付けが行われている。
宗教的(キリスト教的)の香りが大変するが、読みやすい文章であるが、医療倫理的なことを期待して読むとがっかりします。
同シリーズからはすでに「医療倫理」も出版され、岩波書店より翻訳本も出ていますから、そちらの方がよいかもしれません。
内容評価は
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値段は
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倫理を論理学としてでなく、医療として考えたい方には不向きかもしれませんので、お勧め度は、
とします。
June21.2012(N)
No.61
内科救急見逃し症例カンファレンス-M&Mでエラーを防ぐ-
見逃し症例。重症例、死亡例などを検討し、再発を防止するためのカンファレンスであるM&M(morbidity & mortality)を日本に紹介する一冊で、
医学雑誌「medicina」に連載されていたシリーズの書籍化である。
M&Mカンファレンスの方法論や実践について、目的や歴史から書き始められており、
実際の症例は21症例呈示され、システムエラー、情報収集エラー、情報処理エラー、情報検証エラー、間違った知識、最後に無過失エラーに分類されている。
日本で定着させるための秘訣が対談として終わりに付けられており、ある意味M&Mが一冊でわかる内容です。
M&Mの意義についてはいろんな意見があるところであるがゆえに、医療安全の観点からの勉強という意味だけでなく、自分はどう思うかも大切かもしれない。
内容評価は
、
値段は
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症例集としても邪道かも知れませんが仕え、いろんな角度からの勉強に耐えうる一冊という意味で、お勧め度は、
とします。
June20.2012(N)