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医学書 ブックレビュー

No.60

ひきこもりに出会ったらーこころの医療と支援—

 最近、日常の外来診療で成人の「ひきこもり」の方を診察する機会がありました。 なぜが短期間に数人を診る経験となり、よく考えると「ひきこもり」の定義や成人の場合の考え方など、全く解っていない自分に気付き、出版されたこの一冊となった訳です。 実際に「ひきこもりとは」から始まり、存在さえ知らなかったガイドラインの概要紹介や年齢層別の対応の仕方、 治療の一般論、最後に地域支援システム構築や社会支援について漏れなく述べられています。 ただ、逆にこれは私には無理だという実感と、世界が違うという気持ちが強くなってしまいました。 内容は理解しやすいように書かれているのですが、回転が悪い私の頭には全然入ってこず、苦労した一冊です。 内容評価は 、 値段は 。 必要な知識だと思うのですが、結局は歯ごたえのある一冊というより読み手を選ぶ一冊であり、お勧め度は、 とします。

June19.2012(N)

No.59

電子カルテ時代のPOS

 1973年に出版された「POS—医療と医学教育の革新のための新しいシステム」の実質的な改訂版。 実際の著者は聖路加国際病院の渡辺直先生である。 ページをめくると最初に出てくる「監修の言葉」で本当に歴史を感じさせる日野原先生の言葉に触れられるだけでも幸せかもしれない。 内容は以前に医学教育の革新という部分は若干弱くなった気がするが、 現実問題として電子カルテ導入でのPOS(problem-oriented medical system)を用いた医療の標準化と質の向上については理解し確認しておくべきものが並んでいる。 Weed教授やHurst教授の名前が出てきて病歴のそれこそ「歴史」に関心のある方には涙ものの一冊になります。 基本的でかつ実際今も使われている医療の記録あり方を確認するには必須の書籍であり、 内容評価は 、 値段は 。 日野原先生が大好きな方も、この手の本がお気に入りの方も絶対の一冊であり、お勧め度は、 とします。

June18.2012(N)

No.58

自分を支える心の技法

 ストレスの強い医療現場で必要とされる対人関係やセルフコントロールにつながる心理学的技法について書かれた一冊。 対人関係を変える9つのレッスンが述べられており、「対人関係の問題を解決するには、結局のところ“自分の心”に向き合うしかない」と結論付けている。 中でも「怒り」について触れている部分に多くの分量が割かれており、この点に興味がある方には貴重な書籍であろう。 もちろんこの手の本につきものの賛否両論はあろうが。 著者の「心は自分ではない」、「付き合いにくい隣人のような存在」という言葉が思わずどきっとさせられます。 内容評価は 、 値段は 。 多くの方にとって一度は考えるべき問題であるが少し「心」が重くなる部分でもあり、お勧め度は、 とします。

June17.2012(N)

No.57

睡眠薬プラクティカルガイド

 日常臨床においては診療科を問わず睡眠薬に関わっているかと思われる。 ただ、しっかり勉強したかというと、各製薬メーカーから提供された資料を元に断片的に知識にとどまっていることが多いのではないか。 今回出版された200ページに満たない書籍であるが、睡眠薬についての基礎知識から適応や実際の使い方、特に問題となる副作用について理解しやすい内容で記述されている。 最後に「睡眠にまつわる誤解を解く」という章も設けられており、親切である。 何度勉強しても解った気になってしまう分野であるが、「現在の睡眠薬」を理解するには適した一冊を思われ、 内容評価は 、 値段は 。 ただ、逆に「睡眠薬」で200ページはきついという実感もあり、お勧め度は、 とします。

June16.2012(N)

No.56

楽しくイラストで学ぶ水・電解質の知識(改訂第二版)

 1987年に初版が出版されたものの改訂版。もちろんこれは25年前の書籍であり、当然手元になく比較はできなかった。 全体を通じてエッセイ風の書物であり、非常に読みやすく、ましく「楽しく」学べそう。ただ、内容はとうは簡単ではなく、結局は手強いものでしょう。 最新の知見に基づいた記載であり、鉱質コルチコイド反応性低Na血症など、他の書籍では扱っていない内容をしっかり取り入れられており満足の一冊。 ただ、過換気症候群の治療内容など、一部に首をかしげる箇所があるが、ご愛嬌か。 臨床を熟知された内容であり、章立てを含め著者の立ち位置がよくわかるラインナップである。 内容評価は 、 値段は 。 臨床に役立つ内容がバランスよく配置されており、お勧め度は、 とします。

June15.2012(N)

No.55

構造と診断―ゼロからの診断学―

 総合医学雑誌「JIM」に最近まで連載されていた内容を書籍化されたもの。 簡単そうで難解な内容を、ゲーム理論やワイン・エキスパートなどを用い、手を変え品を変え提示されている。 最上丈太郎というペンネームで岩田先生が最初の書籍を出されて以来、ほとんど発行されたものは読んできた気がするが、 解った気分にはすぐなれるが、肝心な点はするっと逃げられている感覚があり、岩田先生の「哲学」はそんなには甘くないということであろうし、 だからこそ、次の書籍も購入してしまうのかもしれない。 診断学に興味のある方は必読であり、特に診断学を「ナナメ」に感じたい方向けで、 内容評価は 、 値段は 。 必ずしも実践的(マニュアル的)ではありませんが、臨床医としての立ち位置を確認するのみ参考になること請け合いであり、お勧め度は、 とします。

June14.2012(N)

No.54

アプローチの一般化に基づく救急科診療ことはじめ(増補版)

 3年前に出版されたものの増補版。 内容は以前と余り変わっていないようである。携帯用の製本で内容もすぐ読める。 ただ、初期研修医向けというよりは学生の実習向けというレベルであろう。 とすると、もう少し救急診療の総論的な部分があってもと思われるが、ぜいたくかもしれない。 タイトルの「アプローチの一般化に基づく」という箇所は内容を読んでも若干理解しがたいと感じたが、他の方はどう思われるであろうか。 正直、蔵書として手持ちにするにも、ハンドブックとして携帯するにも中途半端な気がするため、 内容評価は 、 値段は 。 正統的な内容であるが内容の量的な問題を考慮し、お勧め度は、 とします。

June13.2012(N)

No.53

石綿ばく露と石綿関連疾患

 出版は少し古く2008年に出版されたもので2002年、2005年の二度改訂後の増補新装版である。 2006年の「石綿による健康被害の救済に関する法律」が施行されたのを受けてのもの。 石綿の基礎知識から医学的解説、肺癌と中皮腫の事例紹介以外に石綿関連疾患の補償と救済について50ページ程度が割かれている。 今回、この書籍を取り上げたのは当病院の立地である阪南市、泉南市が石綿関連工場のメッカだったこともあり、外来にて多くの方を診察する機会が多いためであった。 この本の末尾に記載されている参考資料の全国石綿製品製造工場一覧に大阪府の欄があり、当地域が人口に比して多くの工場があったことが実感として理解できる。 内容評価は 、 値段は 。 地域性や興味の問題かもしれませんが、お勧め度は、 とします。

June12.2012(N)

No.52

嚥下障害診療ガイドライン2012年版

 2008年に出版されたガイドラインの改訂版。 耳鼻咽喉科外来での嚥下障害診療を基本としたものである。 あまり文献的なエビデンスに偏ったものではなく、エキスパートの経験も重視し、より実用的なガイドライン作成を目指そうとしている。 Clinical Questionsを11項目入れ工夫された内容となった。 DVD付きであるが原文は60ページ前後も読みやすい分量となっている。 ただ、やはり新しいエビデンスが少ないのか近年の引用文献が少なく、結果としてどこが新しくなったのかが不明確となっているのが残念である。 内容評価は 、 値段は 。 嚥下障害に無関係な総合診療はなく、ただ耳鼻科的な側面が強い内容で、お勧め度は、 とします。

June11.2012(N)

No.51

精神医療過疎の町から

 2007年に北海道名寄市に落下傘開業した精神科クリニック医師の一冊。 当地に開業となって経過や開業後の状態が物語りとして、ある意味楽しく読めます。 通常医師が開業にいたる経過とは全く異なった過程での開業理由や多くの家庭医としての開業とも後の仕事内容が違い、興味がつきません。 ただ、筆者も述べているように精神医療の過疎が実は問題ではなく、人口が減り、人がいなくなるということが、人の有り様を通常とは違った形にし、 ついては医療のあり方も変容してしまうことに、正直恐怖してしまいます。 医療のあり方を別の視点で考えるにはよい機会という意味で、 内容評価は 、 値段は 。 精神科嫌いの方にもお奨めできる内容で、お勧め度は、 とします。

June10.2012(N)

No.50

権力の病理—誰が行使し誰が苦しむのかー医療・人権・貧困

 医師で人類学者である著者が貧困の問題に取り組んだ大著の一冊。 原版は2003年出版されている。世界を見渡したときに経済格差が一番著明に現れるのは医療の分野だとされる。 ただ、貧困を扱う際に、いろんな解決策が検討されるが、生きるための権利が無残に蹂躙され、 いわば人権侵害が当たり前のように通ってしまう世界そのものをどのように理解するか。 真の解決策は貧困や格差問題の本質と、その苦しみを本当に理解する以外にないのではないか、という問いかけである。 日本にいると他人事になってしまうテーマであるが、医療人としての一種の根本仮題であり、 内容評価は 、 値段は 。 やはり重いテーマであり馬力が必要で、お勧め度は、 とします。

June9.2012(N)

No.49

精神医学を再考する

 医療人類学分野の大家であるハーヴァード大学クラインマン教授の現代の古典。 原書は1988年刊行ものである。精神科医であり医療人類学の第一人者の著作であるため、「病いの語り」でもそうであったが、 語りは平易であるが、考察に至る道筋は鋭利な刃物のようで、正直読み込み理解することは大変な労力を要する。 個人的には、日本人の「対人恐怖症」と「人間恐怖」の部分が特に興味を引いたが、全体では数分の一程度しか解らなかったと思う。 しかし、筆者のどんな考察も臨床に還元されなければいけないという気持ちだけは伝わった気がする。 内容自体が専門的なため、内容評価は 、 値段は 。 この手の話がお好きな方向きですが、お勧め度は、 とします。

June8.2012(N)

No.48

ここがポイント!抗菌薬耐性を攻略する抗菌薬の選び方・使い方

 浜松医大の堀井先生と浜松医療センターの矢野先生が共著で出された書籍ですが、矢野先生は第4章「嫌気性菌が関与する感染症:誤嚥性肺炎」の一部の執筆です。 抗菌薬治療の基礎論から耐性への過程、そして薬剤耐性を考慮した抗菌薬使用や対策について記載されている。 基礎論が専門的で歯ごたえがある反面、臨床的な面はかなり平易な内容となっている。 薬剤耐性をこの一冊にてマスターしようとするにはかなり予備知識が要求されるかもしれない。意外と内容が高度なため、 内容評価は 、 値段は 。 対象制限なく、お勧め度は、 とします。

June7.2012(N)

No.47

糖尿病治療ガイド2012−2013

 毎年発行されている日本糖尿病学会よりの糖尿病治療のガイド。 「はじめに」にその年の変更点が重要項目として列記されており、他のガイドライン本より圧倒的に親切である。 今回はHbA1cの国際標準化に伴う表記法の変更が要点となっている。 他に高血圧や高脂血症についての変更もあった。 学会が責任を持って専門医としても、一般医としても必要とされるミニマム・リクワイアメントを定時的に発信しているのは本当にすばらしいことです。 糖尿病に関係しない総合診療医はいないはずですから、最低限とチェックは定期的に必要でしょう。 内容評価は 、 値段は 。 対象制限なく、お勧め度は、 とします。

June6.2012(N)

No.46

咳嗽に関するガイドライン(第二版)

 2005年の日本呼吸器学会が発行したガイドラインの改訂第二版。 咳嗽のガイドラインは米国、英国、欧州など数種類が知られているが、呼吸器関連に対しては、肺炎などと同様に比較検討が可能なガイドラインである。 スタイルは前回より変更され、Mindsに準拠されたものになっている。今回の内容は前回と大きく変化した箇所はあまり見られず、 新たな薬剤もなく、スタイルの変化が主な要点になっていると思われる。 咳嗽に関しての最新の考え方を学びたい方にはいささか失望があるかもしれないが、知識を整理したい方にはスタイルの変更を含めニーズに合致しているかもしれない。 内容評価は 、 値段は 。 これから咳嗽の勉強を始める研修医レベルを想定し、お勧め度は、 とします。

June5.2012(N)

No.45

薬剤性肺障害の診断・治療の手引き

 2006年に日本呼吸器学会が発行したガイドラインの実質第二版。 今回はガイドラインとするにはエビデンス、つまり大規模無為臨床試験が薬剤性肺障害に関してはほとんど利用できず、 「ガイドライン」から「手引き」も言葉上後退して発刊されたもの。 今回は、抗がん剤使用、関節リウマチ治療など関連する領域が以前より増えているため、呼吸器科専門ではなく、 他の領域の専門医が理解できるように配慮されている。 診断のフローチャート含め記載されているが、確定する困難さが逆に際立っている手引きとなっている。 結果として、本書はあくまでも呼吸器科専門向けの書籍と思われ、 内容評価は 、 値段は 。 結局は読み手を選ぶ書籍のため、お勧め度は、 とします。

June4.2012(N)

No.44

気管支鏡ベストテクニック

 一時、ほとんど見なくなった気管支鏡関連書籍の一冊。 なぜかブームのように最近は数冊発行されている。 その中でも本書は、写真のきれいさ、内容の理解しやすさ、最新の情報提供など、抜け出た出来である。 多数の執筆陣が自分の得意分野について熱意を持って概説されており、 どうしても職人芸的な要素の残る気管支鏡という検査のすばらしさと可能性を十二分に理解できるよう記載されている。 本書はあくまでも専門家向けの書籍であり、ジェネラリストには内容的にかなり無理のあるレベルであるが、 適応と現時点での気管支鏡の水準を理解する上では必須のものとなろう。 内容評価は 、 値段は 。 一般医家には辞書代わりなりますが、お勧め度は、 とします。

June3.2012(N)

No.43

甲状腺疾患の診かた、考え方

田上哲也  中外医学社(定価3200円+税、2012年4月初版)

 京都医療センターに勤務されている著者が専門医向けでは、あくまでも一般医家向けに執筆した甲状腺疾患についての一冊。 内容は最新の学会が提示するガイドラインに沿い、ジェネラリスト向けに概説されているが、どうしても一部専門的な解説になりがちである。 逆に、甲状腺疾患についての基礎的な解説や基本についてもかなり言及されている。 おしむらくは、日常診療上での著者の診療のコツや自説をもう少し紹介して欲しかった。 折角の単著が、やや個性のない書籍となっている面があり残念であった。 言い換えると甲状腺の勉強をこの本から始めるには最適かもしれない。 内容評価は 、 値段は 。 初期、後期研修医や甲状腺の勉強し始めの方を中心に、お勧め度は、 とします。

June2.2012(N)

No.42

肺がん検診のための胸部X線読影テキスト

日本肺癌学会編  金原出版(定価6000円+税、2012年4月初版)

 日本肺癌学会集団検診委員会による肺がん用の胸部X線診断読影のテキストです。 ただ、肺がん検診用のものではなく、十分一般診療に役立つ内容となっています。 入門編という訳でもなく、以前に国立がんセンター式と言われた読影手順の紹介のみならず、 「小三J」方式や「ひとのハイ」方式など最近の読影方法にも言及されており、今は胸部単純写真読影方法を勉強し直そうという方にもうってつけの一冊です。 ただ、もちろん肺腫瘍中心の書籍のためびまん性肺疾患等のついては割かれている分量は少しですが。 実際の読影手順を勉強しようという方に合った内容であり、 内容評価は 、 値段は 。 アトラス的な書籍の溢れる中、ある意味古風な書籍であり、お勧め度は、 とします。

June1.2012(N)

No.41

帰してはいけない外来患者

前野哲博 他編  医学書院(定価3800円+税、2012年2月初版)

 初期研修時に実際は一番困る外来研修にターゲットを絞った一冊。 ただし、内容は初期、後期研修医向けというレベルではなく、一般診療医に十分役立つ内容である。 外来診療のミニマム・エッセンスを「帰してはいけない」という一言にまとめた手法は「さすが」です。 各論部や症例呈示も読みやすい内容です。とくに、総論部分である第一章「外来で使えるgeneral rule」は30ページ前後の内容であるが、一読の価値があります。 「帰す」とう臨床決断がどういうプロセスで行われるかを概説されています。 日々行っている自分自身の日常診療に理屈の必要な方は参考になることは請け合いです。 内容評価は 、 値段は 。 外来診療一般に役立つ書籍が少ないこともあり、お勧め度は、 とします。

May.2012(N)



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