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医学書 ブックレビュー

No.260

科学の限界

池内了  ちくま新書(定価740円+税、2012年11月初版)

 東日本大震災に関連して巨大地震や大津波を予測できず、その上、原発事故も制御できなかった事実を踏まえ、人間にとって科学の意味が問いかけ直されている。 例えば「科学は私たちを幸福にしたのか?」と。こういったことに対する答えとして著者の考えが述べられた新書の一冊。 同じ著者の岩波新書の「疑似科学入門」も面白かったが、本当に論理的に書かれており理解しやすい。 科学の終焉の話から始まり、タイトルでもある科学の限界を人間から、社会から、科学自体から、そして社会とのせめぎ合いから、の4つの視点に分けて議論されている。 トランスサイエンスやビッグサイエンスに触れながら、科学の限界を言われる中で、「等身大の科学」を提言し締めくくられている。 内容評価は 、 値段は 。 医療、医学が科学であるか、即答しづらい。しかし、少なくとも科学として視点は必要であり、そういった意味でも自分の立ち位置を確認するにはうってつけの一冊を思われる。 理解しやすく、整理された内容は頭にしっかり残る気がします。お勧め度は、 とします。

Jan6.2012(N)

No.259

日経メディクイズ胸部X線 画像診断の基本

日経メディカル編  日経BP社(定価5800円+税、2012年11月初版)

 日経メディカルをチェックされている名物のメディクイズからの抜粋と新規合わせての計57題。たっぷりと楽しめます。 どうもクイズ形式というか、問題形式は取っつきやすく、学習にはうってつけのスタイルでしょう。ただ、気を付けないと記憶には余り残らないキライがあります。 自分の知識を確認、整理に使用するのか、他の成書の副読本的に使用するのか、他にもあるでしょう。 本書は前半に総論的な話が組み込まれていますが、さすがにこの分量では胸部単純の読影が学べるとは思えず、知識整理を想定され編集されているようです。 うまく使うべき一冊ということになりますが、問題は良質なものが多く、出版技術の進歩なのか、画像の質も読影に耐える質です。 内容評価は 、 値段は 。 この手の本の短所は値段が高くなることです。単に気楽に問題を愉しめばと言いたいのですが、結局は懐の相談ということになるでしょう。 学ぶか、愉しむか、判断して決めて下さい。お勧め度は、 とします。

Jan5.2012(N)

No.258

在宅ケアの不思議な力

秋山正子  医学書院(定価1400円+税、2010年2月初版)

 秋山先生の最新刊を読んだときに、なぜ在宅なのか、がうまく理解できず、本書を入手しました。 一冊目の書籍は、結構新鮮で、実務が判っていながら、全体を俯瞰できる本当にすばらしい方だと想像できました。 本書でも、力強い文章力のお持ちの方で、読んでいても思いがしっかりと当方に伝わります。また、なぜ在宅なのか、都合良く本書で著者の気持ちが理解できた気がします。 具体的な在宅の方向性ついてはすべてが賛同出来るものではありませんが、少なくともオビで柳田邦男さんが書かれているとおり 「新たなケアのあり方を構築してきた熱い実践の手記」には間違いありません。 内容評価は 、 値段は 。 医学書というよりは医療エッセイの部門に入る一冊です。余り深刻ならずに読めますが、結構驚きの詰まった本でもあります。在宅ケアに興味のある方はどうぞ。 今まで秋山先生の名前さえ、よく知っていなかった当方が素人だった気がしています。お勧め度は、 とします。

Jan4.2012(N)

No.257

診療所における嚥下内視鏡検査の実際

加藤孝邦 編集  全日本病院出版会(定価2500円+税、2012年11月初版)

 MB ENTONIの第147巻である特集号。ムックの一種である医学雑誌でときおりドキッとする特集がある。過去では急性喉頭蓋炎や鼻出血のときは大変参考となった。 今回は嚥下内視鏡検査についてである。カラー写真を中心に実務としてすぐ利用できるような内容を提供されている。 ただ、検査としてはどうしても初心者である当方にはDVD等の動画が必要であり、文中でも紹介されている書籍を別に購入するか、講習を受けに行くかすべきなのだろう。 理解しオーダーするだけであれば、本書でも十分対応できるかも知れないが、自分自身で検査をある程度行えるように、と思うのなら、さらに工夫が必要なようである。 内容評価は 、 値段は 。 雑誌のバラの購入は特に難しい。カラーだと購入しないとコピーは通常困難だし、すぐ絶版で入手困難にもなる。 今回は購入して正解と思っているが、いつもどうしようか判断に困ることになる。お勧め度は、 とします。

Jan3.2012(N)

No.256

精神科病院を出て、町へ

伊藤順一郎  岩波ブックレット(定価500円+税、2012年11月初版)

 ACT (Assertive Community Treatment)を紹介する岩波ブックレットの一冊。ACTとは包括型地域生活支援プログラムのことである。 精神科医、看護師、作業療法士、精神保健衛生士などがチームを組み、地域社会のなかへ訪問していき、精神障害をもつ人びとの治療やケアにあたるという方法で、 日本では2000年頃より著者たちによって取り組まれてきたそうです。一言でいうと「病いがあっても、地域で暮らしたい。」をかなえようとするものです。 ブックレットの内容としては、現在の日本の精神医療の現状を紹介し、歴史的事情を考慮した上で、 これからの精神医療が目指す一方向としてACTを取り上げ今までの活動を紹介しています。 内容評価は 、 値段は 。 こういう手法は巻尾の参考文献でも紹介されているイタリア、フランスの事例は知っていたのですが、ACTの手法はアメリカから取り入れたとのことで、 門外漢には知らない常識が、当然のことながら多いということを実感しました。 お勧め度は、 とします。

Jan2.2012(N)

No.255

あなたへの医師キャリアガイダンス

岡田 定 他編集  医学書院(定価1800円+税、2012年8月初版)

 医学図書をカタログ販売で購入しようとすると、ときとして入手の手違いが起こり、読み飛ばしてしまうことがある。 本書は出版前の7月には予約したし、大手の医学書院で入手には安心していたが、品切れのメールがうまく届かず読み飛ばす結果となった。 最近になり、本書が身近で話題となった際に、そういえば、と気が付いた次第です。 あわてて手配し拝読しました。紹介というより感想になってしまいますが、田舎の病院から見ると、エリート集団の輝きがまぶしい一冊ということになります。 現役の初期、後期研修医の方々には参考になりますが、圧倒され、自信を失すかも知れません。 指導医クラスは、このような部下が持つとうれしい思う反面、自分の能力は、とふと思ってしまうでしょう。そんな書籍です。 内容評価は 、 値段は 。 通読して方向性をみるというよりは個々の先生方の言葉を気にして読みました。 青木眞先生の「最も危険なことは、全力投球せずに、各科の美味しいところだけをつまみ食いしながらローテンションを続けることです。 ・・・中途半端な努力ほど若い医師に毒性の強いものはありません。」という言葉でした。何度も頷いてしまいました。 お勧め度は、 とします。

Jan1.2012(N)

No.254

PEG完全攻略

竜田正晴 他監修  金芳堂(定価4600円+税、2012年12月初版)

 何かと話題になる胃瘻に関連する書籍の一冊。大阪府立成人病センターの先生方が主体で執筆されています。 内容は、適応と禁忌、PEG自体の手技に関連しての項目(材料自体や手技、適応疾患、病態別の手技選択など)、胃瘻増設後のケア、 栄養についての側面、カテーテル交換や抜去について、最後に偶発症について記載されている。まさに「完全攻略」です。 シェーマ、写真を多く使用し、文章も簡潔明瞭で、本当に読みやすく良書です。 その上、胃瘻増設についての適応と禁忌について、単なるガイドラインの紹介ではなく、医療倫理的な観点をしっかり踏まえて書かれており、 ある意味一番気になるところしっかり押さえた一冊となっています。 内容評価は 、 値段は 。 胃瘻、PEG関連の書籍も数冊手持ちにあります。当たり前ですが、幅が広がり、以前の本で倫理など余り考えずに適応を考えていた自分が恥ずかしくなります。 いつまで経っても学んでいくことで納得してしかないのかもしれません。 お勧め度は、 とします。

Dec31.2012(N)

No.253

嚥下医学 第2号

日本嚥下医学会  中山書店(定価2800円+税、2012年10月初版)

 日本嚥下医学会が学会誌として発行し、それを書籍扱いにて出版社より書店に依託され販売されているもの。 公式な学会誌ですが、学会員はオンラインで無料購読できても印刷部では無料配布されていないようです。 今回はメディカルスタッフ向けの講座が主体で、総合診療、老年医学が主体であれば、嚥下の問題が避けて通れず、結局は目を通す羽目になります。 誤嚥に対してどちらかというと野蛮と言われる外科的療法の適応や実際を学にて適した一冊です。 ただ、一テーマの執筆に割かれる分量が少なく、もう少し長くというのは贅沢でしょうか。 内容評価は 、 値段は 。 最近はやりの動画配信サイト付きのオンライン主体の医学雑誌(ムック、書籍)であり、結局は使い方なのでしょうが、何かせわしない感覚を持ってしまいます。 学会運営での経費削減にいう意味でも、今後このような医学雑誌の発行が増えていくのでしょう。 お勧め度は、 とします。

Dec30.2012(N)

No.252

提言—日本のポリファーマシー

徳田安春編集  尾島医学教育研究所(定価3600円+税、2012年10月初版)

 2012年6月に開催された第2回家庭医・病院総合医教育研究会の討議をもとに、編集されたコンソーシアム第二巻。テーマは「ポリファーマシー」である。 提言、症例検討、欧米の現状など多面的な検討がなされている。 地域医療をどのように医学教育に活かしていくかが後半に検討され、最後は天理よろず相談所病院のこれまでの足跡が紹介されている。 意外とオーソドックスな内容で、ある意味驚いた。余り読むところがないムックのような書籍かと先入観をもったまま購入し通読したが、 結構真剣に読み込まないと理解できない箇所が多い上に、医学教育についてもいつも違った視点で論じられており、本当に参考となった。 内容評価は 、 値段は 。 日常臨床にすぐ役立つような即戦力しての本ではなく、蘊蓄が好きな方向きの一冊ということになりそう。 ただ、次の三冊目への期待は十分持てそうではあるが。 お勧め度は、 とします。

Dec29.2012(N)

No.251

壊れる日本人 再生編

柳田邦男  新潮文庫(定価438円+税、2008年11月初版)

 恒例のシリーズエッセイの2005年版。1年前の同名の作品でケータイ・ネット依存症に対する警鐘を鳴らした本の続編。エッセイなので続きといっても単に内容がと言う意味です。 7年前に「意志に言葉を教える」というタイトルで発行され5年前に文庫化され改題。 著者の持論であるネット社会の弊害として、こどもの基礎的な学力が低下しており、特にきちんと言葉で表現する「言語表現能力」が著しいと。 自分の考えや感情をきちんと言葉にできないという意味である。原因はネット社会であるが故に、親、兄弟との接触が少なく社会性が欠落していくためとされている。 自宅に帰っても、病院でいても、こどもだけではなく、該当しそうな人間がたくさんいるような気がしてしまう。 内容評価は 、 値段は 。 他にも鎌田實先生が解説で激賞している「一四年目にやってくる男の出番」や医師の世界では当たり前の「専門バカの作り方」など、シリーズの文庫の中では一番面白く読めました。 お勧め度は、 とします。

Dec28.2012(N)

No.250

会社で心を病むということ

松崎一葉  新潮文庫(定価400円+税、2010年7月初版)

 「うつ病は必ず克服できる。」とのオビの文字に惹かれて購入した一冊。産業精神科医である著者が経験と現在いろいろ試みているシステムを用いて書かれている。 うつ病のパターン、ストレスについて、発症時のサイン、そして、治療と対策、と順次わかりやすく説明されており、経験からの意見は強い。 例えば、うつ病がよくなる「松崎式大自然療法」などは医療の知識がなくともすぐ理解出来る内容となっている。 個別の事象を積み上げ、如何に成果が上がったかを一冊使って書かれている。それが集約されて冒頭のオビの言葉となる訳です。 専門は違いますが、同業者ですから、批判は読まれてから、としましょう。 内容評価は 、 値段は 。 必ず克服、と書かれると腰が引けてしまうのですが、よく考えると著者自ら言っているかどうかは本文からははっきりしませんでした。 色眼鏡で見るのはほどほどにしないといけませんね。でも、お勧め度は、 とします。

Dec27.2012(N)

No.249

水痘・帯状疱疹のすべて

浅野喜造  メジカルビュー社(定価4700円+税、2012年11月初版)

 水痘と帯状疱疹のウイルス学から病因、病理、免疫、疫学、臨床、診断、治療、予防などが網羅された、その名の通りall-in-oneの一冊である。 ただどちらかと言えば水痘中心の論述であり、特に水痘のワクチン接種に重点が置かれているように思われる。 日本が中心となり開発された経緯が開発者自らの話として語られ、歴史を感じる。 水痘ワクチンがウイルスの初感染ならびに再活性化を予防するというユニークなワクチンであり、 免疫賦活による高齢者の帯状疱疹の予防にも米国で用いられている現状が理解できる。ただ、日本では任意接種のため、やはり早期の定期接種化が望まれるのは当然であろう。 書籍としては、グラフィックスも綺麗で学びやすいスタイルである。 内容評価は 、 値段は 。 岡株水痘ワクチンという言葉を正直初めて目にしました。知識がないというのは、本当におそろしい。 成人の水痘もときどき診療する機会があるため、再度勉強するよいきっかけでした。でも、やはりウイルス学は難しい。お勧め度は、 とします。

Dec26.2012(N)

No.248

在宅ケアのはぐくむ力

秋山正子  医学書院(定価1400円+税、2012年12月初版)

 秋山先生の本を初めて読みました。というより、初めて名前を知りました。やはり、小生はモグリだった気がします。 数冊本を出し、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」にも出演されたなど、全く知りませんでした。当方が違う世界の住人であったのでしょう。 しかし、今は大阪の辺境地で、地域に密着しなければ存在意義を問われる病院で悪戦苦闘している当方に取って、 訪問看護師というより訪問看護の伝道師といった感のある秋山先生の言葉は、直接肌に触っている感覚があります。 いままでの歴史とともに今の自分があり、教育者としてのあり方、教育と共育、現在のひとつの到達点としてのオランダ医療・介護システムであるBUURTZORGの紹介など、 今の在宅ケアを感じ、考えることができる一冊と思われます。 内容評価は 、 値段は 。 オビの徳永進先生の「病院満床、家空床」のアンバランスをどのように解消するか、という問題提起がありますが、結局は哲学と倫理の問題とも捉え直すべきなのでしょうか。 当方でも名前は知っていた宇都宮宏子氏や横山孝子氏との対談も別の意味でも楽しく読めます。通常は余り知らない訪問介護の世界へ、どうぞ。お勧め度は、 とします。

Dec25.2012(N)

No.247

聞き上手は一日にしてならず

永江朗  新潮文庫(定価438円+税、2008年5月初版)

 7年前に「話を聞く技術!」として出された本の文庫化。コミュニケーションの基本は、当然、人の話を聞くことである。 プロは人から貴重な情報を引き出して生活の糧を得ている訳であり、そのテクニックは半端ではないはずである。 プロの聞き手10人へのインタビューを通してそれが伝わってくる一冊である。考え方、準備など、個性があり大変面白い。 特に、黒柳徹子さん、田原総一朗さん、糸井重里さん、河合隼雄さんの部分が面白かった。 医療関係はコミュニケーションというテーマから逃げられないため、参考になると思われます。 内容評価は 、 値段は 。 10人のインタビューからおのおのの個性と見えますが、逆にプロとして共通する部分も感じられます。 なかなかプロの聞き手にはなれないなあ、と思いながら通読することとなりました。お勧め度は、 とします。

Dec24.2012(N)

No.246

誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた

岸田直樹  医学書院(定価3200円+税、2012年11月初版)

 手稲渓仁会病院の感染症医によるコモンの典型である感冒診療の指南書。 感冒が鑑別に挙がるような状況で、症状を分解して複数の組み合わせを作り、その状態ごとの考えた方、治療法を一冊まるごとで述べている。 具体的な治療方針、検査の問題など、臨床ですぐに使えるようにしっかりと配慮されている。180ページ程度の書籍であるが、まさに圧巻である。 単著のため、著者の言いたいことが全編で散りばめられており、考えが明確な上、実でないと判らないようなことがTIPSとして惜しげもなく記載されている。 感冒を診療しない医師もいないでしょうし、自分が感冒にならない医師もほとんどいない以上、必須の一冊ということになります。 内容評価は 、 値段は 。 よく使われるフレーズですが、まさしく「たかが感冒、されど感冒」だと痛切に思える本です。読んでいて楽しくなれます。 多分、著者の苦労は尋常じゃなかった気がしますが。お勧め度は、 とします。

Dec23.2012(N)

No.245

病棟・ICUで出会うせん妄の診かた

八田耕太郎 他編著  中外医学社(定価2400円+税、2012年11月初版)

 精神科救急の各著作で有名な八田先生の一冊。今回はせん妄についてである。ただ、残念なのが、共著編であることか。 内容は理解しやすく、全体が170ページあるなかで、特に最初の20ページの総論部は本当によく書けている。20ページのレビューを2400円で買ったと思えば良い買い物である。 後半部の各論、症例編も適切に選択されており、一冊を通じて現時点でのせん妄が精神科医からはどう見えているかが判る内容となっている。 現在と次に控えるガイドラインの有り様も理解しやすくなっている。 手元に5剤(haloperidol, quetiapine, olanzapine, perospiron, risperidone)あり、その薬剤に詳しければ、 せん妄と現時点では同じレベルで闘えるかもしれないと思える一冊です。 内容評価は 、 値段は 。 総論部分をもう少しボリュームを増やして詳しく読みたかったのが本音である。 その上、八田先生の単著で読めればいうことなし、と書くのは贅沢かもしれない。お勧め度は、 とします。

Dec22.2012(N)

No.244

もう困らない!高齢者診療でよく出合う問題とその対応

木村琢磨編  羊土社(定価4500円+税、2012年12月初版)

 国立病院機構東埼玉病院の総合診療科の先生方が中心となり、医療、保険、介護、福祉まで幅広くまとめ上げた、高齢者診療にすぐ使える一冊。 先生方といっても、他職種の方が執筆している。外来、病棟、訪問などの診療を通じて、結局は高齢者医療、老年医学となっている現実から、 このような書籍が必要だと思われてようですし、実際にありそうで無かった気がします。 書籍というよりマニュアルに近い形態で、切り口も症状徴候から入るいつものスタイルでなく、うまく考えられた章立てになっています。 高齢者を「総合的に捉える」、「生活・健康維持」、「よくある臨床問題」、外来診療と病棟診療、訪問診療、介護系施設、そして最後に症例カンファレンスです。 内容評価は 、 値段は 。 総合診療が老年医学化している。救急医学も老年医学化している。こういった現実にどう向き合うか。悩みどころかもしれません。 本書の一つ一つの項目はもう少し分量が欲しかった。マニュアルとしてのスタイルは逆にもったいなかったのではないでしょうか。お勧め度は とします。

Dec21.2012(N)

No.243

「安全」のためのリスク学入門

菅原 努  昭和堂(定価1600円+税、2005年8月初版)

 安全と安心について読み進めてきたものの一冊。最初予定していたリストでは最後に当たる書籍です。丁度福知山線の脱線事故のあった年に発行されています。 本自体は筆者が放射治療学の泰斗のため、主体は放射線の危険性を中心として進められています。東日本大震災のあとでは、身につまされる話となっています。 ただ参考となったのは総論的な部分であり、リスクアナリシスがアセスメント、マネジメント、コミュニケーションの三つの要素からなっているとか、 リスク認知因子としてハーバードの研究機関が10項目あげていることでした。 (1)恐怖心(2)制御可能性(3)自然か人工か(4)選択可能性(5)子供の関与(6)新しいリスクか(7)意識と関心(8)自分に起こるか (9)リスクとベネフィットの取引(10)信頼の10項目よりリスクとして人は感じるようです。 内容評価は 、 値段は 。 放射線や総論的な前半部は出版が以前の本であり、また、以降の書籍でかなり参考、引用されている関係ですでに読んだ感覚がかなりしました。 最後に2章に著者が結局は議論したかったであろうテーマが出てきていて、著者なりの安全と安心が理解できました。お勧め度は、 とします。

Dec20.2012(N)

No.242

人の痛みを感じる国家

柳田邦男  新潮文庫(定価438円+税、2009年11月初版)

 出版年度は相前後して紹介する結果となった恒例のシリーズエッセイの2006年版。5年前に単行本として発行され3年前に文庫化。 今回もIT関連の話題とこども教育の問題、そして、こころの問題を中心に問いかけている。 脳が情報という毒におかされると(1)我慢しようという意思がなくなる(2)行動する際に迷ったりする緊張感がない(3)他者に対する共感性が欠ける、という。 こころが未発達となると(1)現実と空想の区別が不十分で結果の予測能力に乏しい(2)自分を客観的に振り返る自己反省が働きにくいなどが列記されている。 周囲を見渡すとハッとします。あとがきの「いくつになっても創(はじ)めることを忘れない。」という日野原先生の言葉に違う意味でもハッとしました。 内容評価は 、 値段は 。 一冊の中で心に残った言葉は、「人間至る処青山あり。」でした。著者と同じく昔の漢文を思い出します。 この世の中、どこへ行き、どこで人生を送ろうと、骨を埋めるところはどこにでもあるのだ、という意味だそうです。お勧め度は、 とします。

Dec19.2012(N)

No.241

呼吸リハビリテーションマニュアルー運動療法—第二版

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会他編集  日本呼吸ケア・リハビリテーション学会他(非売品、2012年11月初版)

 呼吸リハビリテーション、特に運動療法についてのマニュアルが9年ぶりに改訂され、出版された。 当然、COPDを主に述べられているが、それ以外の呼吸器・呼吸器関連疾患が加わっている。 間質性肺炎も入っているが、肺移植を含む術後回復期の運動療法についても触れられている。 各種病態の理解から始まり、運動療法の実際、維持についても留意、ADLトレーニングを通じての自立、栄養等のセルフマネジメント教育についてなど、 まさにマニュアルとしてすぐに使用できる内容となっている。 内容評価は 、 値段は評価不能。 勉強不足のためだと思うが、9年間で大きく変わった気がしない。細部はより密になっているようだが、実務としては余り関係ない気がする。 現在の日本で呼吸リハビリテーションを確認する意味が主体の通読となった。お勧め度は、 とします。

Dec18.2012(N)



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