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医学書 ブックレビュー

No.160

生活保護の謎

武田知弘  祥伝社新書(定価780円+税、2012年8月初版)

 「次長課長」の河本氏の母親の一件から始まり、オリンピック選手の室伏選手の母親など、最近の生活保護についての話は騒動と言えるレベルかもしれない。 いずれも親族が扶養する義務があるか、と言う点で一部に政治家まで登場に議論されたものである。 いずれにしてもゴシップめいた話であり、よく考えれば生活保護自体をよく知らなかったというのが実際ではないであろうか。 生活保護受給者は210万人を超え、支出額は総額3兆円を大きく上回っているが、実態はよく知らない。 生活保護の受給の条件が四つであること、暴力団との関連、費用の半分が医療費になっていること、支出額は先進国では桁外れに少ないことなど、 驚くような事実と数字が並んでいる。 内容評価は 、 値段は 。 「貧困者は国家に助けてもらう権利がある」という人権思想をどう理解し、医療の現場に活かすかを考えるにはうってつけの一冊であろう。 お勧め度は、 とします。

Sep29.2012(N)

No.159

寿命1000年

ジョナサン・ワイナー  早川書房(定価2300円+税、2012年7月初版)

 老化と死は一種の病気であり、治療可能だとする科学者オーブリー・デ・グレイを中心に長命科学の最先端を紹介した一冊。 彼によると人類はほぼ永遠に生きることができ、不慮の事故を考慮に入れても平均1000年生きられると主張する。 その彼がコンピュータエンジニアだというから驚きである。 老化についてまずは考察し、つぎのその原因となるものを7つに分類し、一つ一つについての答えを出していく。 最後に残った問題は、予想の通り「癌」であり、それに対しても答えを出そうとしている。一見SFのような話をピュリッツァー作家が淡々と理解しやすいように筆を進めていく。 内容評価は 、 値段は 。 人はどうも「不死」の話が大好きだが、逆に胡散臭さも感じてしまうのではないか。 別の読み方として一科学者がそのテーマについてどう生きてきたか、という立場もあるかもしれない。 お勧め度は、 とします。

Sep28.2012(N)

No.158

リスクにあなたは騙される

ダン・ガードナー  早川書房(定価1900円+税、2009年5月初版)

 プロローグの世界貿易センタービルへのテロ攻撃から飛行機と車の移動上の安全の比較から話を始め、 インターネット・ストーカー、麻薬、インフルエンザ、気候変動など対して、史上で最も安全で健康な(平均寿命の変化などから明らかとを説明されている) 人類がなぜ不安に怯えているのかを500ページ弱をかけて解き明かせている。医療の関連したリスクの話もたくさん登場する。 有名な1960年代のシリコン豊胸材、製薬会社による「病気の売り歩き」や「病気のブランド化」、広告代理店の新しい病気や機能不全の創出促進、 高脂血症薬販売促進方法、悪性黒色腫の予防、むずむず脚症候群の頻度など大量の情報が紹介されている。 内容評価は 、 値段は 。 みなさんもいかに「騙されているか」を知りたければ、一読を価値は十分にあると思います。患者を「騙さない」ようにするために必須かもしれません。 お勧め度は、 とします。

Sep27.2012(N)

No.157

図説 死因百科

マイケル・ラルゴ  紀伊國屋書店(定価2200円+税、2012年7月初版)

 死亡診断書に記載される死因はアメリカでは3000以上あるそうだが、その中からいっぷう変わった死にかたを245項目に分類し50音順に記載解説した労作の一冊。 死の断面からアメリカの文化を読み取るのが趣旨か。通読というより気に入った一部を掻い摘んで読んだが、面白いが疲れてくる。 そういう意味の本でないので、当然のことなのでしょうが。一番気にいった項目は「舞台負け」で、舞台というより観客にまけてしまった方々が紹介されているのですが、 タイロン・パワーやヴィック・モローの話はまったく知らず、驚いてしまいました。死に方に精通すれば、一種人生指南書になるのかもしれません。 内容評価は 、 値段は 。 「今日もどこかで、こんな理由で、誰かが死んでいる。」というオビの通りの書籍です。若死にしないようにも活用できるそうです。 お勧め度は、 とします。

Sep26.2012(N)

No.156

はじめての人工呼吸管理

岡元和文編  中外医学社(定価6400円+税、2012年8月初版)

 人工呼吸管理の分野では名の知れた方々が分担執筆した一冊。各パートは非常に理解しやすく、副題の「基本がわかると先が見える」になるほどと思う。 逆に言うと、実務として必要な点が解りやすい反面、その理屈は解らない本ということになる。 どうしても、この本の趣旨やボリュームを考えるとすべては手に入らないので致し方ないが、そういう意味で読み手を選ぶ本です。 もうすぐ出るTobinの洋書であるが人工呼吸の定番書籍が発行されるのを待ちたい気分になります。でも200ページ程度でよくまとめているのにはある意味感動しました。 内容評価は 、 値段は 。 入門というよりは中級編の入口といった難易度かと思います。甘く見ると痛い目をみる本でしょう。 ただ、値段の割に薄く、短時間でOverview出来る点はお奨めです。 お勧め度は、 とします。

Sep25.2012(N)

No.155

日本プライマリ・ケア連合学会 基本研修ハンドブック

日本プライマリ・ケア連合学会編  南山堂(定価4000円+税、2012年9月初版)

 そうそうたるメンバーが執筆した学会策定のハンドブック。まずはポートフォリオの重要性が強調され、それに関連した教育理論や実務論が最終パートで再登場し、 その中間を各基本研修リスト、47項目で網羅しサンドイッチされて形態の一冊です。 通読するには各パートの関連が今ひとつで、辞書代わりすべきなのでしょうが、共著者のリストがおいしすぎ、結局すべてを読む羽目になるかもしれません。 読了してもすぐに例えば研修プログラムが実践できる訳でありませんが、現在の立ち位置はある程度理解できるのでは、と期待できます。 最初の前書き、プロローグにエッセンスが入っているというのは読み過ぎでしょうか。 内容評価は 、 値段は 。 基本研修というタイトルのためか、実践の本なのか、医学教育の本なのか、 どちらにしてもプライマリ・ケアの意味に当方の頭のなかでは「?」が3個ほど飛び交ってしまった書籍でした。 お勧め度は、 とします。

Sep24.2012(N)

No.154

Dr.岩田健太郎のスーパー指導術

岩田健太郎  羊土社(定価3300円+税、2012年9月初版)

 数年前に同じ出版社の研修医向け月刊誌に連載されたものの書籍化。相変わらずの「岩田節」が堪能できます。 連載時に楽しく読め、同じ頃のケアネットでの「スーパー大回診」でもエッセンスに触れた気がしましたが、臨床研修から離れた現在に再度読むと、 以前には解らなかった、見えていなかったものが結構あるように感じられる書籍です。特にレクシャーの部分、Q&Aの対応の箇所は圧巻です。 どうしても、岩田先生の本は、医学書籍というよりエッセイとして読めてしまう傾向があり、単に読み手の問題なのですが、あっという間に通読してしまう羽目に陥ります。 内容評価は 、 値段は 。 どちらも数年前という香りがするような気にはなりますが、まだの方はビジュアルでわかるケアネットの「スーパー大回診」を見てから読まれることをお奨めします。 お勧め度は、 とします。

Sep23.2012(N)

No.153

息切れの診かた

松尾 汎 他編集  文光堂(定価6000円+税、2012年8月初版)

 息切れ、呼吸困難の診療を症例から学ぶ趣旨の一冊。200ページ足らずの本であるが、期待して購入。 結論から言うと特徴がよく分からないということになる。呼吸困難の総論が7ページと短く、全体像がまったく理解できない。 ATSの最近の考察には全く触れていないし、2000年以降の呼吸困難の書籍で数冊出ているものも参考にされて形跡がない。 大半を占める症例のパートも選択理由が不明で、個々の症例も学びやすさを優先した結果か、所詮「仮想症例」の域をでず、 大半が共著者のいろんな意味での力量の範囲でしかないという現実が見えてくる。 内容評価は 、 値段は 。 実験的な意味合いでこのような形態で出版されたのだと思いますが、勉強するための書籍とは感じにくく、 単に呼吸困難を呈したばらばらの症例をまとめて一冊にしたような本です。 お勧め度は、 とします。

Sep22.2012(N)

No.152

女性のいない世界

マーラ・ヴィステンドール  講談社(定価2200円+税、2012年6月初版)

 不自然な性の選択をヒトがなぜ行い、繰り返すのかを背景や商業化、文化も含め考察し、結果的に地球規模で男性化が進んでいる現状に警鐘を鳴らず一冊。 性的不均衡がもたらす恐怖のシナリオを提示し、地球温暖化、環境破壊よりある種切実で危険な事態が新興しつつある事実を淡々と述べ2012年のピュリッツァー賞の最終候補となった。 本来は100対105での出生比率である女性と男性の性別がいつのまにか男性優位となり、アジアだけでも2005年の段階で約1億6000万人の女性が消滅しているという恐るべき事実である。 中国、韓国、インド、イギリス、そしてアメリカの現実をみながら、「なぜか」を追求するところが大変興味深く読める。 内容評価は 、 値段は 。 事実と著者の意見が当然のことながらうまく混じり合っていて、知的な興味が最後まで持続しあっという間に読了できます。 お勧め度は、 とします。

Sep21.2012(N)

No.151

The 臨床推論

大西弘高 編  南山堂(定価3000円+税、2012年8月初版)

 東京大学医学教育国際協力センターの大西先生が医学教育、特に臨床推論について持論の述べた一冊。 この分野は最近の流行であり、似たような内容のものを多く本棚で見つけられると思いますが、系統立って解説され非常に理解しやすいものになっています。 分担執筆の形態のため、大西先生の文章が読めるのも当然一部分となりますが、指導医クラスの先生には一読をお勧めしたい内容が並びます。 執筆陣もこの分野でのオールスター級ばかりで圧倒されます。 現場で話し、理論的な背景、EBMとの関係など読みたい内容が満載の書籍であり、是非一読をお奨めします。 内容評価は 、 値段は 。 ぜいたくを言うなら大西先生の単著で読みたかった。決して執筆陣に不満が有るわけではありません。 ただ、一冊の本として論点がボケているのも事実で、次回を楽しみにします。 お勧め度は、 とします。

Sep20.2012(N)

No.150

病院は、めんどうくさい

木村憲洋  光文社新書(定価760円+税、2012年8月初版)

 病院の複雑なしくみを解りやすくQ&Aの形式で項目別に書かれた新書。本当に理解しやすいスタイルである。 医師の給与であったり、はやく退院させようと病院がなぜするのか、病院も倒産するのかなど、週刊誌的な内容が盛りだくさんで、興味が引かれる。 どちらかというとオビの「疑問が解ければ、病院に行くのが楽しくなる!」タイプの本でなく、病院の蘊蓄を井戸端会議的に話す時のネタとしての価値でしょうか。 売れ筋を狙った一冊であり、言い方を変えれば、どこかで読んだことのある事項を集めて再構成した感のある書籍ということになります。 内容評価は 、 値段は 。 一般の方がどのレベルで病院を理解しているかの物差しにはなるかもしれません。 医療関係者が読んでも得るところは余りないという気持ちで購入するのであれば良いのではと思います。 お勧め度は、 とします。

Sep19.2012(N)

No.149

動画でわかる摂食・嚥下障害患者のリスクマネジメント

藤島一郎 他監修  中山書店(定価3800円+税、2009年11月初版)

 嚥下障害について慌てて調べる必要があり、特に医療安全の側面からのリハビリテーションの進め方を確認するために取り寄せた一冊。 約3年前のDVD動画付きの書籍です。監修が、嚥下障害の第一人者である藤島一郎先生でもあり、期待して読みました、最初の20ページほどに、 他では余り読めない医療安全からの記述があり参考になります。 嚥下障害とリスクは付きものですから、主治医になると実際的な対応のノウハウが必要であり、解りやすい内容となっています。 残念なのは、各論となるところから、ほとんど他書と同じ単なるリハビリテーション的な解説・実践書となってしまい、 リスクマネジメントの部分がかなり希薄となっているところでしょう。 ただ、そこまで求めるのは酷かもしれません。 内容評価は 、 値段は 。 リハビリ全体と医療安全のテーマであれば、ElsevierのThe Clinicsシリーズ理学療法の一号前の特集を参考にされたら良いかもしれません。 お勧め度は、 とします。

Sep18.2012(N)

No.148

親と子の食物アレルギー

伊藤節子  講談社現代新書(定価760円+税、2012年8月初版)

 食物アレルギーに興味があり購入した一冊。 ただ、著者は小児科医であり、専門家であることは間違いないのですが、成人が主体で興味があったものには、非常につらい内容でした。 タイトルの「親と子」の部分を軽視した当方の責任です。 もちろんアレルギーの定義に始まり、気付き、診断、治療そして予防にいたるラインをしっかり記載され、 一般的な知識のレベルを確認されたい方や勉強の入門書として利用したい方には適したものでしょう。 成人のパートを捜しながら通読するとかなり苦しいものだったのは、単なる勘違いからの個人的な感想です。 内容評価は 、 値段は 。 今回は内容の紹介や評価をすることは適切でないと思います。あくまでも、一読者の感想として理解下さい。お勧め度は、 とします。

Sep17.2012(N)

No.147

原典による生命科学入門

木村陽二郎  ちくま文芸文庫(定価1200円+税、2012年8月初版)

 本書は1974年に講談社の「原典による自然科学の歩み」として出版され、1992年に講談社学術文庫に入り、今回はちくまの文芸文庫として発行されたものです。 歴史を感じる経過であり、本書の持つ意味がこれでも分かろうということです。 著者が生物学者ですから、生命倫理的な内容は欲している方は的外れで、タイトル通りの生命科学の本です。 ヒポクラテス、アリストテレス、ハーヴェ、デカルト、ベルナール、ラマルク、ダーウィン、メンデル、モーガン、ワトソンとクリックと10のパートが並び、 知った名前ばかりです。原典の一部の翻訳ですが、風格は感じるも理解は・・・でした。 内容評価は 、 値段は 。 一種ディレッタント的な趣味で読めば良いのでしょうが、まじめに理解しようとすると結構骨が折れそうです。読み手を選ぶ本なのでしょう。お勧め度は、 とします。

Sep16.2012(N)

No.146

パニック障害と過呼吸

磯部 潮  幻冬舎新書(定価780円+税、2012年7月初版)

 パニック障害についての新書の一冊。過呼吸、過換気症候群との関連も最初の部分で触れられている。 本書の特徴は著者の主張である薬物療法より認知行動療法での治療を強く進めている点であろう。 詳細にステップを踏むような指導内容である。ただ、逆にパニック障害の現在の状態や認知度についてはあまりスペースがなく、ある程度知っている方が対象と成るかも知れない。 読みやすく理解が容易な内容であるが、大学の講義でも使えるようなレベルが新書に書かれるような時代となったということかも知れない。 病気としての認知度と広がりを表しているような気がする。 内容評価は 、 値段は 。 淡々とパニック障害の診断、治療が紹介され、読み物としては単調な面があり、自身、ないしは近親者が実際にパニック障害で苦しんでいる方が対象かもしれない。 傍観者には読みとおるのはやや辛いさがあります。お勧め度は、 とします。

Sep15.2012(N)

No.145

この方法で生きのびろ!

ジョショア・ペイビン  草思社文庫(定価680円+税、2012年8月初版)

 表紙がワニの頭で、「ワニに襲われたら鼻面をブンなぐれ!ワイルドだぜぇ!?」のオビで何が書かれているかが一目瞭然の一冊。 原書は10年前のもので、いわゆるサバイバル本である。全部で40項目あるが、呼吸が止まってしまったときと心臓が止まってしまったときの2項目が純粋な意味の医療関連である。 BLSレベルかと思いきや、輪状甲状間膜切開とAEDが紹介されているから驚きである。 今や、というより10年前でこの水準を一般の方に求めるというのは、やはり凄い、の一言につきる。 内容評価は 、 値段は 。 突発事態、絶体絶命の状況で試みる手段が紹介あれており、「笑える」というのが売りだそうだが、当方にはぴんと来なかった。お勧め度は、 とします。

Sep14.2012(N)

No.144

医学概論

川喜田愛郎  筑摩書房(定価1500円+税、2012年8月初版)

 30年前に真興交易出版から発行されたものの再刊です。 したがって、当時の医療を反映しての医学概論が述べられています。 第一部は現代医学の歴史的座標ですが、著者の特異とする医学史のパートであり、第二部のヒトの生物学のパートと合わせ筆者のいわば専門分野です。 第三部の病気の理法である病気の生物学も前二部の基礎的な説明から臨床的な話と移り、いろんな意味で昔を感じさせる内容です。 最後に第四部で診断治療や健康について著者の考えを記し、この本の成り立ちがわかるようになる。 全体を通して日本が自信に満ちあふれていた古き良き時代を感じるのは私だけであろうか。 内容評価は 、 値段は 。 終わり近く、「プライマリー医は、その接触した患者について総合的な医療方針を設計するー当然のことだが、 彼はその地域の疫学に精通していなければならないー任務がある。」と書かれ、原則は古びないということも再確認できます。お勧め度は、 とします。

Sep13.2012(N)

No.143

呼吸からみた摂食機能障害

太田清人  中山書店(定価2800円+税、2012年9月初版)

 呼吸器疾患と誤嚥性肺炎との関連性の研究を踏まえ、誤嚥性肺炎に対する摂食・嚥下リハビリテーションや口腔ケア、 さらに摂食機能障害への呼吸器リハビリテーションも盛んに行われるようになった。 呼吸と嚥下の関連性を理解した上で、その両者の協調性に重点をおいたアプローチを「呼吸・嚥下リハビリテーション」と名付け、紹介・解説した実践書の一冊。 基礎から始まり、障害の評価方法、機能療法の実際、栄養について、そして最後に在宅における実際を説明している。 読みやすく学習効率があげるスタイルとなっているが、どこかで読んだことのある内容がうまく料理されていると感じることが多く、 この本でないと読めないと感じられないのはやや残念である。 内容評価は 、 値段は 。 もう一度、呼吸と嚥下について勉強したい時にまずは簡単にやろうと思い購入するにはよい選択かもしれない。お勧め度は、 とします。

Sep12.2012(N)

No.142

須賀敦子を読む

湯川豊  新潮文庫(定価460円+税、2011年12月初版)

 『きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いて行けるはずだ。 そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする。』 須賀敦子さんの「ユルスナールの靴」のプロローグの一節である。有名な箇所であり、どこかで読まれた方も多いと思います。 計5冊の回想風エッセイを通して一つの世界に触れられる、そういった案内と著者自身の気持ちがよく分かる一冊です。 評論・伝記としても読売文学賞を取っているほどですから問題ないのですが、やはり一冊でも読んだ方が対象になるかもしれません。 内容評価は 、 値段は 。 須賀敦子さんが亡くなられて、もう15年近く経つことに気がつき、紹介された本がどういった時に読んだのかが、 だんだん遠のいていく自分に悲しくなりました。お勧め度は、 とします。

Sep11.2012(N)

No.141

奇跡のリンゴ

石川拓治  幻冬舎文庫(定価533円+税、2011年4月初版)

 NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられたリンゴ農家木村秋則さんについての番組を書籍化したもの。 農薬どころか有機肥料も一切使わないリンゴ作りが「腐らない」奇跡のリンゴに至るまでの約10年間の長い道を描いています。 部分部分の理屈ではなく、現場を通して全体を理解し把握することの大切さが身にしみる内容です。 ある意味、表紙の写真の顔が全てを物語っているのですが、これも本文で触れられています。 臨済宗の公案のような問いかけに答えようとし、「私、バカだからさ、いつかはできるんじゃないかって、ただ、イノシシみたいに突き進んだのさ」と振り返る。 勝てないなあ、という一言につきます。 内容評価は 、 値段は 。 生き方はすばらしく、感動がありますが、どうしても理屈にこだわってしまうと割り切れない内容がつきまといます。お勧め度は、 とします。

Sep10.2012(N)



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