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医学書 ブックレビュー

No.400

自分らしく死ぬ

ダニエル・カラハン  ぎょうせい(定価2800円+税、2006年10月初版)

 本書は古書(中古書)として手に入れ通読した。通常、本は新品で購入するのだが、入手できないときは、図書館には行かず、あきらめるか、原書があれば、 値段が手頃であれば原文に当たることにしている。しかし、本書はDaniel CallahanによるThe Troubled Dream of Life: In Search of a Peaceful Deathの翻訳であるが、 日本語版はもちろん、原書も古書しかないようで、結局、この有様です。今、丸善から出ている生命倫理学のシリーズを読み進めている関係で、 気になる書籍を孫引きしているためであり、油断して読み始めた。通読するのに、一週間かかってしまった。 文章は明解で、読みやすく、260ページ程度の単行本であるが、内容が濃く、スピードが上がらないのである。 でも、苦痛ではない。副題である延命治療がゆがめるもの、と著者が思っていることが淡々と書かれている。 内容評価は 、 値段(古書なので本当に参考値)は 。 巻尾で著者がアメリカの著明な医療倫理学者でヘイスティングスセンターの長年の設立者であったことを初めて知った。 気にする必要はないのだが、こんな当方が倫理の勉強をしているのが恥ずかしくなる。良書であるが、万人に薦められない、そういった一冊であった。お勧め度は、 とします。

May28.2013(N)

No.399

もうプレゼンで困らない!和英で引ける医学英語フレーズ辞典

伊達 勲  メジカルビュー社(定価2800円+税、2013年3月初版)

 最近目立って出版が増えている医学英語や医学プレゼンテーション関連の一冊。数年から十年に一度程度、循環的にブームがある気がする。 前回は批判的吟味が流行し、その関連でJAMAのシリーズを含め主に医療統計をテーマに出版され、英語の論文作成の手引きだった気がする。 その前はEBM、その前はテープやCDでの実際の発音だった記憶があるが、歴史は繰り返す、ですか。今回は国際学会での英語での発表をいかに行うかを、 まずは発表原稿作成という点で辞典として使えるスタイルを主に書かれている。実用書の一種であり、普通は読むという本ではないかも知れないが、実際に通読すると面白い。 いい加減な英語力の当方でも、それなりになるほどと思えるからである。 内容評価は 、 値段は 。 若い先生方を見ていると、以前に比べ英語が既に堪能のグループと英語ができなくても不自由しないし日本での医療に英語は不要と割り切っているグループにより 二分化されている気がする。どちらに与するつもりもないが、情報は多い方がいいと単に思うのだが。実用書としてですから、お勧め度は、 とします。

May27.2013(N)

No.398

Step Up式 感染症診療のコツ 初期研修から後期研修まで

本郷 偉元 他著  文光堂(定価5200円+税、2013年2月初版)

 文光堂のBunkodo Essential Advanced Mook (BEAM)シリーズの一冊。今回は副題のとおりに研修医向けに感染症についてまとめられている。 正直、またかという気持ちで期待せずに手に取ったが、良い意味で裏切られた。 研修医向けに必要な知識、手技、判断ができるように強弱を付け、されに次にステップに向けて勉強できる手段も提供し、面白く仕事ができるように、チカラを与える一冊である。 臨床経験豊富な医師が読んでも、知識の深みはもの足らないかもしれないが、それ以上に、今の研修医にとって何が必要で、何が要求されているのかが理解しやすい構成となっている。 総論、診察の基本、検査、初期と後期に分けた各論など、執筆陣を見ても当然のできなのでしょう。 内容評価は 、 値段は 。 最近の感染症関連の書籍の中でも、うまく書かれた一冊である。対象が明確で、内容にフィットしている。 もちろんベテラン医師が指導のためのレベルチェックにも使えるすぐれものである。感染症の辞書代わり使う代物ではないが、通読をお薦めします。お勧め度は、 とします。

May26.2013(N)

No.397

医療者のための結核の知識(第4版)

四元秀毅 他著  医学書院(定価3400円+税、2013年3月初版)

 2001年より出されている結核の種本の一つ。今回が第4版でほぼ4年に一度の改訂であり適切な頻度。 今回内容に手が加わっているのはインターフェロンγ放出試験のところでしょうか。 第二世代から第三世代に、また別の検査(T-SPOT)が保健適応となり、その解説が記載されている。 他は、最新の知見に沿い変更されているのでしょうが、参考文献が巻尾に載っているが、主要文献・書籍のみでどの箇所がどの文献由来かは全く不明。 タイトルの「医療者」すべてにとって理解しやすい、と最優先にされたための編集方針かと思われる。確かに、文章も内容も読みやすいに一冊だった。 ただ、逆にそれ以上に根拠を求めると、自力で検索するしかないようである。 内容評価は 、 値段は 。 結核予防会発行の結核関連書籍以外でも、以前はまだ結核について発行されていたが、今は数少ない一冊となっている。 京都大学のグループが中心となり編集された同じ出版社の本もあったはずだが、改訂されたかも記憶に無い。結核自体がそういった取扱のような気がする。お勧め度は、 とします。

May25.2013(N)

No.396

幸福の研究

デレック・ボック  東洋経済新聞社(定価2600円+税、2011年10月初版)

 原著は2010年に出版されたDerek BokによるThe Politics of Happiness: What Government Can Learn from the New Research on Well-Beingである。 著者は世界的な法学者で20年間学長を務めた方らしい。すぐ内容に入ると、序章で有名なブータンの国民総幸福の話から始まる。日本でも多くの書籍が出ている。 幸福についてはベンサムに始まり研究されてきたが、測定ということをとっても満足されていない。 幸福の感じ方が時代とともに実際は余り変化していず、個人は自身を幸福にする手段を理解できず、実経済と幸福度の関係も十分理解されていず、 政府等の社会としての努力も余り幸福には結びついていないというデータを含め、楽しくない話が並んでいる。 著者は研究というよりは、今後どうあって欲しいか、と問いかけ活かしていくために本書を書いた気がする。 内容評価は 、 値段は 。 自分が幸福になるための本ではなく、人を幸福にするための一冊でしょう。 でも、もっと大きく、国や人びとが幸福になるためには何ができるかを書きたかった書籍と思います。お勧め度は、 とします。

May24.2013(N)

No.395

フロー体験入門 楽しみと創造の心理学

M・チクセントミハイ  世界思想社(定価2300円+税、2010年5月初版)

 一見宗教書と思えるタイトルであるがれっきとした行動分析学の書籍である。 原著は1997年に出版されたMihaly CsikszentmihalyiによるFinding Flow: The Psychology of Engagement with Everyday Lifeである。フローとは何か。 「目標が明確で、迅速なフィードバックがあり、そしてスキル(技能)とチャレンジ(挑戦)のバランスが取れたギリギリのところで活動しているとき、・・・、 集中が焦点を結び、散漫さは消滅し、時の経過と自我の感覚を失う。・・・行動をコントロールできているという感覚を得、世界に全面的に一体化していると感じる。」 と著者が説明し、「よどみなく自然に流れる水に例えて」「フロー(流れ)」と表現しているのである。 フロー体験を通して人が幸福になるためにどのように行動変容できるかを書いた一冊と著者が語っている書籍で、読んでみると通常の自己啓発書とは趣が違っていた。 内容評価は 、 値段は 。 これもカーネマンの書籍からの孫引きであるが、本書は行動経済学としてやや本筋から外れたもので、逆にリラックスして読めた。 ただ、悲しいから当方のアタマではほとんど素通りで何も残らなかった。イシアタマになっているのかもしれない。お勧め度は、 とします。

May23.2013(N)

No.394

自分を知り、自分を変える

ティモシー・ウィルソン  新曜社(定価2850円+税、2005年5月初版)

 原著は2002年に出版されたTimothy D. WilsonによるStrangers to ourselves: Discovering the adaptive unconsciousである。 心理学者である著者の長年の研究を元にした一般向け書籍。グラドウェルの「第1感」やカーネマンの書籍でよく引用されており、購入した。 66ページから現れる適応的無意識対意識の記述や表などが、引用されているのが良く解る。行動経済学としてではなく、心理学の問題として捉えるとこうなるのかと思わせるのである。 従って、これを用いた次のステップも、分析心理学というよりは、自己変容にどのようにこの無意識を使っていくかになっているようで、興味深い。 全く異なる領域にある種共有部分が存在し、クロスオーバーしているのであろうか。 タイトルのみでは、単なる実用書、人生指南書に思ってしまい、特に副題の「適応的無意識の心理学」が本書の性格を示しているが、通常は気が付かないのではないか。 内容評価は 、 値段は 。 カーネマンの言いたいことを少しでもと思い、周辺書を読み継いでいるが、余り参考にならない。カーネマンはカーネマンなのであろうか。 本書籍もそうであるが、シンプルさが不足している気がしてしまう。そうは言っても、読みやすく、分かりやすい一冊であった。お勧め度は、 とします。

May22.2013(N)

No.393

実践行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択

リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン  日経BP社(定価2200円+税、2009年7月初版)

 原著は2008年に出版されたRichard H. Thaler & Cass R. SunsteinによるNudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happinessである。 Nudgeの意味は「注意や合図のために人の横腹を特にひじでやさしく押したり、軽く突いたりすること」と最初に不平ばかり言う人、 厄介者という意味のNoodgeとの対比で紹介している。このNudgeを利用して行動選択の選択アーキテクチャー作成に関する6つの原則の記憶術が紹介されている。 iNcentive(インセンティブ)Understand mappings(マッピングを理解する)Defaults(デフォルト)Give feedback(フィードバックを与える) Expert error(エラーを予期する)Structure complex choices(複雑な選択を体系化する)で、大文字を集めてSnudgeである。これで一冊読んだ気になれます。 内容評価は 、 値段は 。 本書を読めばNudgesがなぜ行動経済学かわかるそうです。 実用書としての行動経済学の書籍としてベストセラーだったそうですが、実は本書を臨床決断の勉強しているときに孫引きで取り寄せ原書で苦労して読んでいました。 「いました」は先のNudgesの記憶術の所に至って初めてはたと気が付いたからです。前回は行動経済学関連とは全く理解せずに読んだ気がします。 カーネマンの近著を読み、理解が深まったと思いたいものです。お勧め度は、 とします。

May21.2013(N)

No.392

ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則

バーバラ・フレドリクソン  日本実業出版社(定価1600円+税、2010年7月初版)

 原著は2009年に出版されたBarbara L. FredricksonによるPositivityである。 心理学者で大学教授である著者がエビデンス、学術的根拠にこだわり科学的なポジティブを徹底的に追求した一冊。 ポジティブ感情の効能を(1)視野を広げ、多くの可能性が見つかる(2)細胞の成長をうながす(3)性格を変える(4)習慣が変わる(5)寿命を延ばす、 などとして紹介している。以前よくいわれたネアカが楽観主義、オプティミズムにつながりポジティブという肯定的な表現に置き換わってきた流れがあるように見える。 人間の脳に無価値なものはなく、暗さ、寂しさ、怒りなどのネガティブな気分もアタマを停止させ休ませる大切な機能であり、 怒りも心の奥の感情を自身に知らせているということも言える。ポジティブだけでは疲れてしまう。ネガティブとのバランスが大切と説き、表題に至ることになる。 内容評価は 、 値段は 。 もとはネクラなのか、こういった本を読むと、本当に疲れてしまう。本書もコアは自己の拡張と形成理論らしいのだが、そこまで読み込めなかった。お勧め度は、 とします。

May20.2013(N)

No.391

第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい

マルコム・グラッドウェル  光文社(定価1500円+税、2006年3月初版)

 原著は2005年に出版されたMalcolm Gladwellによるblink: The Power of Thinking Without Thinkingである。この前の作品もベストセラーとなり本書もすぐに翻訳されている。 プロローグで取り上げられている「どこかおかしいギリシア彫刻」が有名で、ヒューリスティックスとバイアスに関連した書籍でよく紹介されている。 つまり副題のように第1感が直感(直観)であり、その感覚の理屈を各種の実験を含めて論じられている。 いわば医師のヒューリスティックスのひとつであるスナップ診断の別の意味の根拠でもある訳だ。 カーネマンの著作からはどちらかいうと批判的な論点が目立った気がしたが、読んでみるとなかなか面白い。ただ、そこまで第1感を信じる気になれないが。 内容評価は 、 値段は 。 読みやすく最後にザックリ一直線です。逆に第1感に頼らない診療とは、と考えてしまった。読後の最初の感想です。お勧め度は、 とします。

May19.2013(N)

No.390

教えて!ICU 集中治療に強くなる

早川 桂・清水敬樹  羊土社(定価3800円+税、2013年3月初版)

 レジデントノートに連載されていたシリーズを書籍化。よくあるパターンであるが、良く書かれている。どちらかというとICUでの仕事が好きになるような本である。 通読しても著者が楽しく仕事をしている姿が見えてくる。鎮静、呼吸管理、循環管理、手技などを通して多分著者が学んだことをしっかりと伝えようとしている。 解りやすく、テーマの選びかたも納得できるものになっている由縁であろう。 各分野も網羅的ではなく、その中でも著者が特に強調したい、興味が持てた部分を取り上げているようにも感じる。決して批判ではなく、そういったチョイスが快いのである。 内容評価は 、 値段は 。 連載時から楽しく読んでいたが、書籍化に当たりかなり手を入れボリュームも使いされており、別のものとして考えた方がよいように思える。 書かれているレベルも平均的でオーソドックなもので安心して読めます。お勧め度は、 とします。

May18.2013(N)

No.389

神経内科学ノート

佐々木彰一  医学書院(定価3800円+税、2013年2月初版)

 通読して見て、既視感がある。そう言えば最近読んだJames D. Fix著で寺本明他監訳の神経解剖集中講義(第2版)医学書院(定価3600円+税、2012年3月初版)に スタイルも内容も対象も似ているためのように思える。国家試験から認定、専門試験、臨床までを視野に入れた解りやすく使いやすい、と目的とした一冊である。 比較はしにくいが、網羅的に過不足無く記載されているのが本書で、強弱をうまく付けて読み物としてのスタイルをかろうじて保っているのがFixの書籍でしょうか。 日米の試験事情の違いかもしれません。確認するのは日本、臨床での使い勝手良いのが米国という国民性もあるように感じます。 本書は従って、読む本というよりは確認のために使用する書籍ということになります。 内容評価は 、 値段は 。 個人的にそばに置くのはFixの方になりそうです。どちらが上、といった意味ではなく、自分に不足している情報がよりFixの方が多かったというのが理由です。 可能であれば読み比べてみるのは一興かもしれません。お勧め度は、 とします。

May17.2013(N)

No.388

看護倫理 見ているものが違うから起こること

吉田みつ子  医学書院(定価2200円+税、2013年2月初版)

 川島みどりさんが編集に協力していることもあって、手に取った一冊。川島先生の講演会等で話されていること沿った内容だから協力されているでしょうが、 本書で実際登場するのは巻頭の「刊行に寄せて」のみに見える。患者に手を添えてそばでいることが何よりも大切と訴える川島先生が、 副題の「見ているものが違う」ことの無いように考え著者が症例を中心に組んだ看護倫理の書籍で、理屈より現場の声、眼で考えるスタイルとなっている。 看護倫理というより看護の視点を学ぶといった観点になるかもしれない。各症例に漫画も付いていて理解しやすいように工夫されている。 内容評価は 、 値段は 。 看護倫理、介護倫理など各職種、職場での倫理があるように書籍上では思われる。ただ、そう言った意味の倫理は結局一種類ではないか、といつも読みながら思ってします。 看護でしか解らない倫理が存在するような感覚が言葉から受けてしまうのは偏った見方なのかも知れない。お勧め度は、 とします。

May16.2013(N)

No.387

パルスオキシメータを10倍活用する血液ガス“超”入門

堀川由夫 編著  医学書院(定価1800円+税、2013年3月初版)

 医学書院発行のシリーズ「看護ワンテーマBOOK」の一冊。看護対象であるが、侮ることなかれ。 人工呼吸管理の書籍で実は一番医師が参考にし購入しているものが、看護向けの書籍だとの定説(?)があるくらいだから。 今回も、いわゆる“超”本の一冊であるが、呼吸生理が解っていないと、チンプンカンプンとなる。 パルスオキシメータを使用しない総合診療医はいないと思うが、基礎的な理解はどうかというと個人差は当然大きいと思われる。 どのレベルを求めるかで読むものも違ってくるが、入門書ではあるが、簡単な記載な分だけ、理屈が不足して、ザッと目を通すには最適だが、 理解しようとすると結構つらいものがあります。 内容評価は 、 値段は 。 あくまでも理解、チェックの本であり、読んですぐ使える書籍ではなさそう。読んでいると諏訪先生の本を思い出しました。 そう言えば、この本、一切参考文献が載っていません。多分、趣旨がそういう目的なのでしょう。お勧め度は、 とします。

May15.2013(N)

No.386

シリーズ生命倫理学(4)終末期医療

シリーズ生命倫理学編集委員会 編  丸善出版(定価5800円+税、2012年12月初版)

 前巻の脳死・移植関係の一冊と終末期医療の本書、そして次の巻の安楽死・尊厳死の本を合わせると、生命倫理の現場の世界での大きな山がほぼ見えてきそうである。 その中の一冊であり、類書が膨大に存在する中で、どう書かれているのか興味をもって通読しました。 面白く読め、すぐに巻尾までいってしまいましたが、前3巻とは違い、哲学書、文学書としても読める内容でした。 終末期を語るには必要なのでしょうが、読み手には混乱、とまどいをもたらすものでした。別のものの知識と自身の見解がないと、読んでもスッキリできないかも知れません。 理解する、という意味の書籍というよりの考え方を学ぶ、といった一冊に思えます。 内容評価は 、 値段は 。 シリーズものの宿命なのか、面白いところなのか。他の3冊とは趣の異なった書籍です。そういった所まで含めた長所が理解できる方にはお薦めできます。お勧め度は、 とします。

May14.2013(N)

No.385

シリーズ生命倫理学(3)脳死・移植医療

シリーズ生命倫理学編集委員会 編  丸善出版(定価5800円+税、2012年1月初版)

 生命倫理としてよく取り上げられるテーマのひとつである。ある意味万人に生命倫理学が必要であると解ってもらいやすい問題である。 内容は移植の合法性と倫理性から始まり、脳死の問題、臓器移植の現状と課題、法的問題に続き、小児の脳死移植、生体移植に移り、移植のネットワークシステム、 臓器配分や臓器売買が取り上げられ、最終、外国の移植事情で260ページ前後となる。 全体として、移植は倫理的にどう考えるべきか、という真正面の問題とレシピエントの取扱の問題、そして脳死等含めドナーに関わる問題が多く3つの問題が存在するようで、 法整備だけでは追いつかない未解決の問題が山積していることを認識すべきと説かれている。 また、問題点の指摘だけで終わらず、片方に寄ったあるべき姿の一方的発信でもない、バランスのとれた現実論が必要と指摘している。 内容評価は 、 値段は 。 内容としては申し分ないが、歴史的背景のより詳細な説明が欲しかった。 本書で3冊目であるが、企画自体が賞賛されるべきものであり、手に取るだけでも意味がある一冊でしょう。300ページない書籍ですが、読むのに骨が折れます。 翻訳を担当された方々のリストをみると、ため息が出るような名前が並んでいます。お勧め度は、 とします。

May13.2013(N)

No.384

サパイラ 身体診察のアートとサイエンス

ジェイン・M・オリエント  医学書院(定価12000円+税、2013年2月初版)

 原典は2010年にLWWより発行された”Sapira’s Art & Science of Bedside Diagnosis ”4th edである。著者はJane・M・Orient。翻訳版で870ページ弱の大著。 読むだけでも大変で、監訳者の須藤博先生の巻頭言でも指摘されているように、蘊蓄のかたまりのような一冊のため、理解することももっと大変である。 入門書、実用書といった種類のものとはあきらかに一線を引いたしろものである。 最終章の参考文献のところで取り上げられているリストのかなりの部分がすでの入手困難になっていることからも、その価値が解ろうというものである。 内容は一読されたい。単独の著者による医学書籍のしばらさが堪能できます。 内容評価は 、 値段は 。 翻訳を担当された方々のリストをみると、ため息が出るような名前が並んでいます。前の版の原書を持っている方も多いと思いますが、正直日本語はありがたい。 ただ、結局は辞書代わりか、必要なテーマ、自分が専門とする分野のみの拾い読みでも十分その価値があると思われます。値段も加味して、お勧め度は、 とします。

May12.2013(N)

No.383

脳死—概念と診断、そして諸問題—

エルコ・ウィディックス  へるす出版(定価6000円+税、2013年1月初版)

 そのものずばり脳死brain deathを扱った一冊。2011年に出版されたEelco F. M. WijidicksのBrain Death, 2nd ed.を昭和大学救急医学の有賀先生を中心に翻訳されたものです。 内容は脳死の概念の歴史から始まり、具体的な脳死の神経学、宗教的な問題、脳死の概念に対する批判、臓器提供、 そして最後に脳死の臨床的な問題を25提示しひとつひとつ回答を付けている。正しく脳死を真正面から理解しようとする際の基本図書であろう。 関係分野の方が、興味のある方は手に取らざるを得ないではと思っています。決して内容は理解しやすいものとは言えないが、また、日本の事情とはことなる箇所も散見されるが、 一度は理解しておかなければ、という気持ちにさせられる書籍です。 内容評価は 、 値段は 。 テーマが重すぎ、診療の現場で総合診療医が使うといった類の本ではないのは明らかですが、 医師としての立ち位置を含め一度は通るべき道にあるものという一冊ではないでしょうか。 読み手は選ぶと思いますが、興味を持っていただきたいも尾です。お勧め度は、 とします。

May11.2013(N)

No.382

絶対貧困

石井光太  新潮文庫(定価514円+税、2011年7月初版)

 正直、この手の本は好きではありません。この手、というのは貧困を扱った書籍という意味です。 貧困は現実に存在するし、広い世界ではいろんな貧困があるだろうと想像はされても、見たくないという気持ちも現実にはあるからです。 ただ、病院においても、いままでは日本でいて最近まで見なかったような現実、貧困に関係した事例がみられるようになった気がします。 以前よりのモラルが原因での貧困以外に、どうやっても経済的にやっていけず困窮したケース、救いようがない多重の負担をもった方など、 つらい方々と遭遇する機会が明らかに多くなってきています。そういった意味で、本当に貧困を知っているのか、という疑問から修行のように読んだのですが、 副題の「世界リアル貧困学講義」というだけあって、つらさのオンパレードでした。 内容評価は 、 値段は 。 知るためにつらさが必要だというのが解っただけでもよしとすべきでしょうか。こういったルポルタージュを余裕で読める精神力は当方はどうもないようです。お勧め度は、 とします。

May10.2013(N)

No.381

神の棄てた裸体

石井光太  新潮文庫(定価500円+税、2010年5月初版)

 若手ルポライターによる貧困とテーマして著作シリーズの一冊。5年前に単行本として初出のもの。2冊目の購入であるが、目的は貧困とは、である。 日本のワーキングプアを読みたいと思い、世界ではと、手を出した書籍であるが、貧困とは言ってもスケールがさすがでかい。 でかい、というよりは目をそむけてたくなるような現実が次から次に書かれている。著者ではないが、「その前で、途方に暮れるしかないのだろうか。」となる。 それから何事か考えるきっかけになれば、と書かれているが、どうもそう楽観的になれない。身近の話としても、行政を通じて生活に困窮している方の支援すらままならず、 別に意味で本人のモラルも問題となる例が結構多い。思い、考えても、つらい現実である。 内容評価は 、 値段は 。 人口が減少している日本においては、今後ますます貧困の問題が露出し、 医療の世界でもその対応が倫理という観点を超えて今以上に答えを求められ時代がすぐそこに来ているような気がします。お勧め度は、 とします。

May9.2013(N)



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