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医学書 ブックレビュー

No.280

訴訟事例から学ぶ看護業務のリスクマネジメント パート2

日山 亨 他編著  新興医学出版社(定価2100円+税、2013年1月初版)

 日山先生の医師向けの医療訴訟関連2冊の後に出版された看護婦向けのリスクマネジメント関連の2冊目にて計4冊目の書籍。 全部で10症例が取り扱われており、主体が解りやすく述べられ、看護師が身近に学ぶことを目的して一冊と思われる。 医療しての考察を含め、総論的な概観があって各論、つまり今回の10症例がなぜ選ばれているかと含め、かなりの部分が省力されており、 いわば新人ナースにも解るようなスタイルを選んでいるように理解される。 逆に言えば、この点が最大の弱点に見え、得られるが教訓がぼやけているように思える。 リスクマネジメントである以上、理解しやすさと同時に厳しさも必要な気がするが、学習の優先順位の問題かもしれない。 内容評価は 、 値段は 。 看護師向けにはよくできているのかもしれない。 本書を読んで、最近医療紛争、医療裁判関連や倫理について勉強していないことを思い出し、反省するよい機会となりました。 医療人としてベースの話であるだけに、アンテナはいつも張っていないといけないですね。医師向けとして、お勧め度は、 とします。

Jan26.2012(N)

No.279

Dr.徳田のバイタルサイン講座

徳田安春  日本医事新報社(定価2400円+税、2013年1月初版)

 表紙に描かれている男女二人の姿にすぐ目が行きます。男性の方が徳田先生に似ているような、似ていないような。 実際ネクタイとしている徳田先生は余りお会いできませんが。徳田先生のメインテーマの一つであるバイタルサインについての一冊です。 雑誌に書かれた以外にも、カイ書林からのもの、看護師向けの医学書院JJN別冊のものも同テーマであります。 一部重複してしますが、何度勉強しても、と考え全部通読するのも、バイタルサインの重要性を考えるとアリかもしれません。 徳田先生が以前に書かれた論文を引用されながらのいつもの徳田節が読め、大変楽しい気持ちになります。 内容評価は 、 値段は 。 本文以外にも挿入されているコマ漫画風のコラムも面白く、それでいて大変参考になります。 人柄がにじみ出ている一冊ということになるのでしょう。赤いタオルを肩にかけた姿を想像しながら、至福の一時をお過ごし下さい。お勧め度は、 とします。

Jan25.2012(N)

No.278

神経伝導検査ポケットマニュアル

正門由久 他編  医歯薬出版株式会社(定価2800円+税、2013年1月初版)

 神経筋疾患における電気生理学的診断を何度も書籍で学ぼうとするのですが、挫折の連続でした。もう一回チャレンジと思い購入した一冊です。 医師と検査技師の連合軍が書かれたもので、どちらかというと誤診しないような適切な検査を施行するためのマニュアルという位置づけです。 各解剖学的部位について細かく検査の実際を紹介されており、日常で接している方には解りやすい書籍と思われます。 ただ、学びたい当方にとっては、かなりつらい本となってしまい、ポケットマニュアルと通読というのはおかしな話とは考えますが、 一冊読んだあとも、アタマの中は空っぽで、やはりこの分野は当方には向いていないのかもしれません。 内容評価は 、 値段は 。 頑張る気持ちがたっぷりあるのですが、本の選択が間違っているのか、勉強の選択が間違っているのか、悩んでしまうポケットマニュアルとなりました。 もう一度冬眠させておいて考えましょう。いつか春が来るかもしれません。お勧め度は、 とします。

Jan24.2012(N)

No.277

内科救急 実況Live 講義で学ぶ診療のコツ

岩田充永  中外医学社(定価3600円+税、2012年12月初版)

 現在は藤田保健衛生大学の総合救急内科で山中先生のもと、仕事をされている岩田先生の書籍。以前は名古屋掖済会病院でERを担当されていましたが最近移られたようです。 いわゆる売り出し中の若手の一人。研修医には信奉者が多くいるとよく聞くカリスマ医です。 そういった方が研修医向けに行ってきた内科救急に関連したレクチャーを書籍化したのが本書です。 単なるリファレンスではなく、著者が現場で学んだこと、学んで欲しいことが、著者自らの言葉と理解で書かれています。ある意味、本音の一冊ということになります。 もちろん序章の一般論から、ショック、胸痛、呼吸困難、腹痛、頭痛、その他の進む各論まで勉強するというスタイルでも通読可能ですが、 岩田先生の考え方を知ろうして読む方がよい本と思えました。 内容評価は 、 値段は 。 救急、総合内科的な思考・志向パターンには共感を覚え、また、一種人生哲学にも納得できる一冊です。敢えて難点を挙げると、 講義としては参考文献がその都度文中で紹介されており、リスト化されていないため、さらに深掘りした勉強がしにくいところでしょうか。 やはり、そういった種類の読み方を求めない本かもしれません。お勧め度は、 とします。

Jan23.2012(N)

No.276

性の歴史Ⅱ 快楽の活用

ミシェル・フーコー  新潮社(定価2900円+税、1986年10月初版)

 性の歴史の第二巻。第一巻より8年間をおいて出版され、内容もかなり違ったものとなった理由は本書の序文に詳しい。 とはいっても40ページ前後を割いてその変遷が書かれているのだが、これが素人にはストレートにきつかった。 前巻がキリスト教的世界での話であったが、今回は古代ギリシャ・ローマ世界での性の実際と道徳が詳述されている。 具体的には、快楽の道徳的問題構成から始まり、養生術、家庭管理術、恋愛術とすすみ、最後は真の恋で締めくくられている。 ギリシャ時代の医学と哲学を通して性現象を如何に倫理的に解釈しようとしたか、が根底に流れているテーマのようであるが、 あとがきに翻訳者が熱く語っているような気持ちには到底なれなかった。 内容評価は 、 値段は 。 方向性の転換が、フーコー自身の今までにない視点から考察していきたいという強い意志であり、 過去の自身の足跡から見つめ直す手段であったという批評は、常にチャレンジャーであるという生き方にも受け取れ、共感できるものである。お勧め度は、 とします。

Jan22.2012(N)

No.275

患者さんは「英語で・・・」と言っています!

齋藤宣彦 他編集  メディカルビュー社(定価2000円+税、2013年1月初版)

 医学教育学会での神様である齋藤先生が編著者のひとりである、医学英語についての一冊。 東邦大学の医学英語の専門家である野中先生とアラン・ハウク先生の二人が多分主体となって書かれた本と想像されます。 日常診療で必要とされる、医療面接、身体診察、症例提示などをごく基本的な言葉で行える能力をつくるために執筆された本であり、 卒前から卒後臨床研修レベルを想定したものと考えられます。臨床としての医学英語の能力開発を目的とした一冊であり、読むというよりは使うという種類の書籍です。 でも、実際に読むと日常診療の一場面が英語ではこう言うのかと、何度も納得できる箇所があり、読みものとしても楽しめる内容となっています。 内容評価は 、 値段は 。 結局、英語というものは本で勉強しても使わないとたちどころに錆びてくるしろものと思っています。日本語だけでもコミュニケーションに苦労している立場を考えると、 本書の価値は人それぞれといういうことになるでしょうか。それにしては最近医療関係の本も「!」印が多くなりましたね。お勧め度は、 とします。

Jan21.2012(N)

No.274

感染症のチーム医療 専門医の処方意図を探れ!

三笠桂一・森田邦彦 編  南江堂(定価3500円+税、2012年11月初版)

 本書を購入して失敗しました。とは言っても、本書が価値のない本だという意味ではありません。 通読してみてから気が付いたことですが、何かもの足らない感覚がつきまとい、最後になってからに序文を読むと、がっかりしました。 本書は感性制御チーム(ICT)の一員としての薬剤師向けの本だったためです。 ICTを構成するメンバーとして薬の専門家である薬剤師の職能には多くの期待があり、そのために必要とされる領域を12に分けて、各分野の専門家が解説しています。 カンファレンス、病態、所見、処方設計、必読のエビデンス、CHECK!すべき目のつけどころ、という順に進んでいくスタイルで統一され、 理解しやすく読みやすい内容となっています。 内容評価は 、 値段は 。 薬剤師の立場を理解するために敢えて購入する必要もなく、感染症をさらに理解するため購入するには適した本とも言えず、医師という立場には向かない書籍と考えます。 少なくとも適応を誤った当方にはつらい一冊でした。お勧め度は、 とします。

Jan20.2012(N)

No.273

疫学と人類学

JA・トゥロースル  メディカル・サイエンス・インターナショナル(定価3500円+税、2012年12月初版)

 「Epidemiology and Culture」という原名で2005年に出版されたものの翻訳である。 著者は社会科学(人類学)と疫学という両分野の統一を図り、その結果、社会疫学というアプローチを通して副題にもある 「医学的研究におけるパラダイムシフト」の要と成る論考が展開されています。 現在の疫学が医学の発達に連れて生物学的疾患観が支配的となり、社会的な視点が脱落した結果、 延々とリスクを生産する「リスクファクター疫学」に陥っていると看過しています。まさに現場の臨床医も胸に突き刺さるものがあると思います。 社会性、文化性を排除してEBMなる観点のみで個々の患者を指導する姿勢自体が問題となっていると指摘されると、 リスクの説明のみで治療した感覚をもつ現在の態度を改める必要があり、予防とは何か、をもう一度見つめ直す必要があります。 ウィルヒョウ、スノーが登場する歴史的記述と「人」、「場所」、「時」という人類学的手法を用いた歴史的・文化的考察の結果、人間の健康は社会文化的次元で捉え直し、 保健問題の解決には社会改革が必要だと説かれた時代に戻り、人類学と疫学が共同するパラダイムを拓く必要を強く訴えています。 内容評価は 、 値段は 。 以前の翻訳もそうでしたが、訳者である木原先生の出される本は、良質かつ上質の書籍ばかりで唸ります。 偉そうに言える立場ではありませんが、行っている広い意味での医療に対する哲学を感じるからでしょう。 正直、簡単に通読できる本ではありませんが、雰囲気だけでも味わうには価値のある一冊を考えます。 なぜかは、手に取ると理解できると思います。お勧め度は、 とします。

Jan19.2012(N)

No.272

罪と監獄のロンドン

スティーヴ・ジョーンズ  ちくま文庫(定価1000円+税、2012年11月初版)

 原書は”Capital Punishments”で1992年にSteve Jonesにより出版され1996年に邦訳されてものの文庫化。ロンドン裏面史三部作の最終巻らしい。 今回取り上げるのは、約100年前のロンドンにおけるドメスティックバイオレンスを前半部で扱われているからである。 古くよき時代であったとしても暴力の現実は悲惨であり、以前の男尊女卑という精神背景は西洋東洋問わず不変あることが再認識されます。 後半の刑務所は入った以降も釈放、再犯のところ含め、人間とは余り進化していないと思ってしまいます。 ただ、こういった所謂DVの背景にあるアルコール、生活環境、教養以外に、いつも貧困という問題が存在することが不変な気がします。現在にも通じる貧困はやはり根が深い。 内容評価は 、 値段は 。 内容とは全く無関係ですが、あとがきが面白い。訳者の苦労やロンドン滞在中の自身のアルコール依存についてや、どうして語学を勉強し本書を翻訳することになったのかは、 読んでのお楽しみ。また、訳者のロンドン案内も絶品です。お勧め度は、 とします。

Jan18.2012(N)

No.271

性の歴史Ⅰ 知への意志

ミシェル・フーコー  新潮社(定価2400円+税、1986年9月初版)

 以前より読まなければと、気持ちはあったが放置してあった本のひとつ。 どうもフーコーは哲学者というだけで当方には解りにくい気持ちになるが、人気があるため、一旦はそれほど難しくない気にさせておいて、 読んでみるとなかなか理解した気持ちになれない、当方にとってはずるい著者の一人である。 今回は変心のしっかりとした理由もなく、ただ漠然とひょっとしたら絶版になるかもしれないという危惧からの購入となった。 原書が出て37年、翻訳はその10年後。内容は古典主義以降の「性の抑圧」の仕組みを歴史の流れ、権力との関係において論じたものである。 フーコー自身は一般に抑圧されたと認識していず、どちらかというとされていなかったと考えていたようである。 内容評価は 、 値段は 。 実は本書の第三章「性の科学」が読みたくて購入したのだが、結局はキリスト教的背景の解釈が中心で、当方の期待した医学からの展望ではなくややがっかり。 あくまでも自分勝手ではありますが。お勧め度は、 とします。

Jan17.2012(N)

No.270

ここがおかしい日本の社会保障

山田昌弘  文春文庫(定価533円+税、2012年11月初版)

 5,6年前までは格差社会についての評論が多く見られたが、それ以降はさらに露骨となり貧困がメインテーマの書籍が多く見られるようになった。 高度経済成長期の社会保障制度や福祉制度が、経済状況や家族の実態が変化しているのにもかかわらず、そのままであるという問題を抱えたまま、 格差から貧困へとまっしぐらに落ちていった感がある。 今にして思うとシャープやパナソニックの経営状態や全く別の話である人口構成の問題が知らない間に直接個人に影響を与えている。 ただ、気が付いてはいるが、実感がないというのが大多数であろうと想像される。生活保護より低い最低賃金額や孫の年金保険料を祖父母が支払う時代が到来しているのである。 頻回に指摘されているこの事実を再確認するにはうってつけの一冊であろう。 内容評価は 、 値段は 。 3年前に出版されたものの文庫化であるが、さらに現実は厳しくなっているようです。お勧め度は、 とします。

Jan16.2012(N)

No.269

在宅ケアのつながる力

秋山正子  医学書院(定価1400円+税、2011年2月初版)

 順番はばらばらですが、秋山先生の書かれた本の3冊目の購入です。 今頃気づいたのですが看護・介護系の雑誌に連載された記事が元になっているようで、 三冊を通読して感じた自伝風のエッセイという雰囲気は連載のスタイルに由来するものなのかもしれません。 日本での在宅についての問題点をいろんな場所、いろんな見地から書かれています。また、以前、もう少し読みたかったマギーズセンターのことも詳しく紹介されています。 ただ、一番印象に残ったのは、認知症の方が夕暮れになると落ち着かなくなる「たそがれ症候群」ならぬ、訪問看護にたずさわる方々の「くれない症候群」でした。 何に対しても「○○してくれない」と言ってしまうことを指すそうで、具体的には「夜中に往診をお願いしても、誰も来てくれない」、 「訪問看護の指示書を書いてくれない」などなどです。 内容評価は 、 値段は 。 単独で読んでもそれなりに楽しく読めますが、三冊をざっと通読しないと判らない箇所がかなりある気がします。勉強と気構えて読む本でなく、 気楽に読むエッセイとすればそこまで要求しなくても良いのかもしれません。お勧め度は、 とします。

Jan15.2012(N)

No.268

主食を抜けば糖尿病は良くなる!

江部康二  文春文庫(定価571円+税、2012年11月初版)

 タイトルそのままの内容で、糖質制限食で糖尿病、その予備軍に画期的な治療効果が出るとする書籍。「医療界の常識をくつがえす」と銘打たれています。 医学的な見地から淡々と議論が進み、治療の成果も出ていると症例も数例提示されていますが、集計は出されていないようです。 詳細に紹介すると批判とも受け取られかねないので、興味のある方は購入して読まれるようにお願いします。 著者は60歳代の某国立大学医学部卒業の後に呼吸器内科をされ、28歳で市中病院に転出され、50歳で同病院の理事長になり、翌年からこの治療に取り組んでおられるようです。 本書はもともと7年前に出版されたものの文庫化のようです。 内容評価は 、 値段は 。 毎年出る糖尿病学会のマニュアルには触れられていた気がしないのですが、みなさんは如何お考えでしょうか。あくまでもは、個人的な好みとして、お勧め度は、 とします。

Jan14.2012(N)

No.267

すべての内科医が知っておきたい神経疾患の診から、考え方とその対応

大生定義 編  羊土社(定価5200円+税、2013年1月初版)

 なぜか、最近になって神経内科的な書籍が多く出版されている気がする。 特に、はやりのめまいや認知症関連だけではなく、ガイドラインについてのものや初期・後期研修向けの神経学的所見の取り方やジェネラル志向の本が多い。 今回も羊土社のジェネラル診療シリーズの一冊でこれに当たる。分担執筆で総合診療としての必要な神経学を後期研修医レベルで提供しているというのがウリである。 ただ、注意は総論の箇所のボリュームが少なく、分担執筆者が苦労して書かれている割に内容が浅くなってしまい、いまいち面白く感じにくくなっている。 また、各論的に疾患別の解説も全体に三分の二を占めるが、辞書的なっているのも惜しまれる。 分担執筆の個々の担当の方は頑張って書かれているのが伝わってくるが、全体としてその良さが伝わりきっていない。 内容評価は 、 値段は 。 分担執筆の弱点が出た本に見えますが、コラムは楽しく読めます。 通読すると言うよりは、後半の各論疾患編を困った時の事典としてとらえて購入すべき一冊かもしれません。お勧め度は、 とします。

Jan13.2012(N)

No.266

博士たちの奇妙な研究

久我羅内  文春文庫(定価533円+税、2012年11月初版)

 不可思議現象の解明から奇抜な発明まで、世界の科学者たちが大まじめに研究する新説・奇説を紹介したオモシロ科学本。 副題の「素晴らしき異端科学の世界」がすべてを物語っている。しかし、確かに結構真面目に解説されており、例えば、サヴァン症候群(Savant syndrome)。 映画「レインマン」でご覧になった方も多いと思う。主に自閉症とみられる人のなかで、ひとつの技能にだけ優れた人たちをさす。 そのおおよそ10%が程度の差があるが当てはまるらしい。これを一般人に適用しようという試みが紹介されている。ちなみにサヴァンとは「大学者」という意味らしい。 どちらにしても当方には全く無関係であろう。他にもいろいろ出ています。 内容評価は 、 値段は 。 蘊蓄、雑学好きに向いているかもしれません。でも、「突然外国語をしゃべりだす人たち」ではミステリさながらの原因追及で結局は脳梗塞等による脳の損傷の結果であり、 もともとは「外国語症候群」とされていたが、正確には「外国語アクセント症候群」で本当に突然外国語をしゃべり始めるのではないと明確に解決している。 ひょっとしてためになる本かもしれません。お勧め度は、 とします。

Jan12.2012(N)

No.265

Dr.リトルが教える医学英吾スピーキングが素晴らしく上達する方法

ドーリック・リトル  羊土社(定価3400円+税、2013年1月初版)

 ハワイ大学で医学英語を長年日本人向けに教授されていた先生の一冊。 特別に執筆されたものを教え子である、これもきら星の如くの先生方が翻訳され、それを町淳二先生が監訳され出版されています。 その上、印税はすべてNPO法人野口医学研究所に全額寄付され、医学教育活動にあてられるという、これだけでも美談のかたまりの書籍です。 内容は医学英語自体の勉強を教えるテキストではなく、勉強方法を明確に示している本です。 従って、学ぶ方向性を、症例のプレゼンテーションや学会発表などに参考になるといった実用的な面や感情、信頼、論理といった精神的な面を含む多様な要素に分け提示されています。 Medicalese(医学俗語)といった蘊蓄に富む内容で、正直捉えにくい部分もありますが、どちらかというとエッセイとして読んだ方が良さがわかる書籍かもしれません。 内容評価は 、 値段は 。 学ぶために購入する、というよりは、知っておくべきことが何なのかをチェックするために購入するという姿勢が正しい気がする一冊です。 ただ、趣旨に賛同することに多分は異論のある方はないではと思います。お勧め度は、 とします。

Jan11.2012(N)

No.264

ぼくらの中の発達障害

青木省三  ちくまプリマー新書(定価840円+税、2012年11月初版)

 一つの文化ともう一つの文化の間に位置する人を境界人(Marginal person)と文化人類学では呼ぶそうである。 あとがきで著者が述べているように発達障害に生きる人びとの文化を知る上でそういった立場に身を置く必要があると書かれたのが本書である。 短所もあれば長所ある生き方を理解し、必ずしも境界線があるわけではない疾患を連続性のある状態、曖昧さ、 グレーゾーンを残したものとして理解しようとすることが大切だとしています。 自閉症、アスペルガー症候群、そして広汎性発達障害など、発達はさまざまであり、その人らしい生き方があることへの理解を求めた一冊ということになります。 内容評価は 、 値段は 。 コミュニケーションをとることの難しさ、人との距離感など日常当たり前のことが困難になったときの対応と考えると誰しもあり得ることかもと、 別の意味で思ってしまいました。お勧め度は、 とします。

Jan10.2012(N)

No.263

ボクには世界がこう見えていた

小林和彦  新潮文庫(定価590円+税、2011年11月初版)

 本書は解説から読まれることをお薦めします。本文から読むと自分がどこまで正常なのかを心配してしまい、居心地が悪いまま読み進めることになってしまうからです。 50ページ前後読んでから、読むのが苦痛となり解説を読んでから再度通読しました。 アニメ関連する職業についた24歳の青年が幻覚妄想状態から精神神経科に入退院を繰り返す病状となり現在はグループホームで療養されている方の自伝(青春記)です。 6年前に「東郷室長賞—好きぞ触れニヤー」というタイトル刊行されたものの文庫化ですが、統合失調症と診断された側からの自らの精神疾患体験を綴ったドキュメンタリーということになります。 ただ、解説で専門家でもある岩波明氏の説明にあるとおり、総合失調症ではなく統合失調感情障害が多分正式な診断名であり、 そのため明晰な文章で論理的な破綻のない本が書けたとう内容に安心して通読できた次第です。 内容評価は 、 値段は 。 精神疾患の一種リハビリをリカバリーというそうですが、社会復帰を前提し通常の生活を送る方向で考えようとしても日本では違和感がまだあり、 そういった違和感の源が自身の中にどうのように存在するかが自覚された一冊でした。お勧め度は、 とします。

Jan9.2012(N)

No.262

関節炎のX線診断講義

杉本英治  カイ書林(定価3600円+税、2012年9月初版)

 カイ書林の発行するジェネラリスト・マスターズ・シリーズの9巻目。自治医大放射線科の杉本先生がABCsという感染炎のX線写真読影法を用いて246点の写真を使いまとめた一冊。 余り予備知識無くとも、ある程度のレベルまで達した気持ちになれます。症例の構成も考えられており、疾患の頻度を考慮したテーマが選ばれています。 なにか、以前のケアネットでみた岸本先生の読影のシリーズを思い出されます。 違いは、本書は全体の三分の二が手に焦点が合っており、全体の分量の問題か、他の部位の説明がどうしても弱いと感じてしまうところです。 整形外科やリウマチ科などの専門医からすると物足りないかも知れませんが、入門書として適したものと考えます。疾患を知ってさえいればという前提はありますが。 内容評価は 、 値段は 。 使わない技はすぐ錆びて忘れてしまう。胸部単純写真の読影ですら、そういったキライがあるわけですから、学んで使い続けるところにも工夫が必要なのでしょう。 その時、手元に置いておきたい一冊です。ただ、もう少しシェーマが欲しかった気がします。お勧め度は、 とします。

Jan8.2012(N)

No.261

不可能、不確定、不完全

ジェイムズ・D・スタイン  ハヤカワノンフィクション文庫(定価940円+税、2012年11月初版)

 早川書房の「数理を愉しむ」シリーズの一冊であり副題の「『できない』を証明する数学の力」が内容を的確に紹介している。2年前に出版された書籍の文庫化。 数年前から数学ブームがあるそうだが個人としては実際に見たことはない。 書店で準古典的な書籍をよく見かけるとか、あとは数学で犯罪を解明するというアメリカTVシリーズ「ナンバー」が一時面白く2,3のシリーズを購入した記憶がある程度です。 今回は、クルマの修理に始まり、名刺の並び替え、選挙方法など身近なものから話を始め、三大“できない”検証とされている 「ハイデンベルクの不確定原理」「ゲーデルの不完全性定理」「アローの不可能性定理」を紹介している。 内容評価は 、 値段は 。 「できない」という否定的な命題を証明することが、数学・物理の世界では、逆に新たな視野を切り開く不可欠な契機ないなりうることを示す一冊であり、 ニーバーの祈りではないが、本書でも過程は結局難解であるが、出てくる結論は非常に美的であり綺麗である。お勧め度は、 とします。

Jan7.2012(N)



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